チート薬師のスローライフ2(3)

〜異世界に作ろうドラッグストア〜

3 恋の行方

 店番をしていると、久しぶりにリリカがやってきた。

 「よお。久しぶり。狩猟祭、どうだった?」

 「お陰さまで、優勝することが出来たわ」

 「そりゃよかったな。おめでとう。いやー。あれからお礼を言いにきたって聞いたけど、結果は聞いてなかったから、どうなったんだろうって、気になってたんだ」

 「そ。そう……。き。気になってたのね……」

 髪の毛を指先でいじりながら、リリカは目をそらす。

 またクルルさんのことを愚痴りにきたか、相談か何かだろう。

 今日ポーラは来なさそうだから、とおれはポーラが勝手に持ち込んだイスをすすめた。

 「あ。ありがと、う……」

 なーんかぎこちないな……。具合でも悪いのか?

 カウンターのむかいにすわったリリカはずーっとおれに横顔を見せている。

 「ミナさん……いないのよね?」

 ……よね?

 「ああ。ノエラと買い物に行っている」

 ミナはブローチを持っていれば、家から出られるので、最近は家事を済ませると散歩したり、買い物したりすることが多くなった。外に出られるのが楽しいんだろう。

 「そうよね……いないの、確認してから、店に入ったから……」

 ぼそぼそ、と小声で言うリリカ。ミナと何かあったのか? おれの知らないところでケンカした、とか。ミナが相手なら、そんなこともなさそうなもんだけど。

 「なあ、リリカ。今日は何しに来たんだ?」

 「……ミナさんのことを……知りたいの……」

 リリカは恥ずかしそうに、そう言った。

 「ミナのこと? 何で? …………あ」

 察してしまった。……そういうことか。

 兄妹揃って、そういうアレに目覚めてしまったワケですか?

 ミナ本人に直接訊きにくいから、仲が良いおれに訊こうって魂胆か。

 「そういうことなら、ドンとこいだ。ミナの何が知りたいの?」

 ポーラもミナのことを可愛いって言うし(性的な意味はなさそうだけど)、いつぞやのオッサン冒険者も虜にしていたし、ミナは結構モテるんだな。

 こうなってくると、リリカもクルルさんのことは言えなくなってくる。

 ほんわか可愛いミナと綺麗系のリリカか……。妄想が色々と膨らんで仕方ない。

 「私、家事はあまり得意ではないのだけれど……ミナさんは……?」

 「あー。ミナはすごいぞ? 家事全般は何でも出来るし、料理も上手い」

 「料理上手……そうなの……」

 なぜかリリカのテンションがさがった。手づくりのお菓子でもあげて親密度をあげようって思ってたのか……? 自分が下手で、相手が上手っていうのを知っていれば、そういうアピールはむしろ逆効果になりそうだからなー。

 「けど、大丈夫だぞ、リリカ。心を込めて作れば、上手い下手は関係ない!」

 「そ、そうかしら」

 リリカの表情が明るくなった。よし、ちょっと励ますことに成功した。

 「大事なことを、訊きそびれたのだけど……レイジは……ミナさんと……どういう、関係なの?」

 そろーり、とリリカはこっそり見つめてくる。確かにこれは、最初に確認しておかないといけないことだ。おれは知ったような顔で親指をぐっと立てる。

 「リリカ、安心しろ。そういう仲じゃないから」

 「―そうなのね!」

 また少しリリカの表情が明るくなった。

 「わ、私が、見た限りでは、そういう関係ではない、と思っていたのだけれど。い、一応ね、と、遠目で、見たことが、何度かあって……。べ―別に、たまたま、たまたまよ? 見ていたワケじゃなくて、見かけたの!」

 うんうん、ツンデレらしいフォローの入れ方ですなあ。

 「確認は大事だよな、自分の思い込みって怖いし」

 「なによ、ニヤニヤしちゃって……」

 ふん、とリリカは顔を背ける。

 「他に訊きたいことは?」

 「いいの、今日はもう。それが確認出来ただけで、十分だから。けど……」

 言葉を切って、リリカはうつむいた。

 「他の誰かに、負けたくないの、私―」

 ミナを狙うとなると、ライバルは多そうだからな。ミナは相手が女の子って場合はどうなんだろう。あっさりオーケーするんだろうか?

 けどそれは、ミナの問題であっておれが気にすることじゃない。

 前の狩猟祭もそうだったけど、リリカは一生懸命だから応援したくなるんだよなあ。

 負けたくない、か……。

 「よし、任せろ。おれがリリカを、最強最高の美少女エルフにプロデュースしてやる!」

 「ほんと!? ありがとう、レイジ! …………あれ? 何か違うような気がするのだけど……? い、いいのかしら、これで……?」

 リリカはそのままでも十分キレイだけど、本人がもっとって言ってるんだから、それをサポートしてあげよう。

 「弱点を補うことよりも、長所を伸ばす方針で行こうと思う」

 「ああ、そう……それで、いいと思うわ」

 フラム夫人に渡したパーフェクト・ジェルは、肌をキレイにする物だけど、リリカにそれが必要かと言われれば……。おれは近くでまじまじとリリカを見つめる。

 「リリカは……肌、白いしキレイだもんな……」

 「な!? やっ。何よ、いきなり」

 ばっとリリカはのけぞるように顔を離した。ずいっとおれが近寄る。

 「まつ毛も長いし、目も二重でぱっちりしているし……眉も細い……」

 「近い、レイジ、近いわよっ」

 エレインに渡した香水と、エレインがノエラに渡した香水。

 この二種類のどちらも香りは違っていて、それがリリカに合うとも思えない。

 好きじゃない香りの香水作ってもアレだからな。

 「リリカは、好きなにおいってある?」

 「え……? ええっと……」

 ちらり、とおれを見て、目をそらした。

 「く、薬のにおい……」

 「へえ、変わってんな」

 「う……。別に、そのにおいが好きというよりは……」

 最後のほうは、もにょもにょと言うから全然聞こえなかった。好きというよりは……その先何て言ったんだろう。じゃあそれほど好きじゃないってことなのか……?

 あと他は……。そうだ、女の子と言えば髪の毛。リリカの髪は結構長い。長ければ長いほど、ケアは大変なはず。普通にキレイだけど、その分時間もかかってるんじゃないか?

 「髪の毛洗ったり、何だかんだするでしょ? そのときに、どれくらい時間かかってる?」

 「そんなことを訊いてどうするのよ……二時間だけれど」

 「長っ!?」

 「別に、私だけがそうなんじゃなくて、他の人もそれくらいだと思うわよ?」

 あ、そっか。シャンプー的な洗剤は一応この世界にも存在していて、おれも使っている。

 洗えたら何でもいいと思っているおれに、髪の毛に対して関心があるわけもない。

 みんなもそれが当たり前で普通だと思っているから、誰も文句なんて言わないんだ。

 「よし、今から創薬してくる。リリカをワンランクもツーランクも上の女にしてみせる!」

 「ああ、うん……」

 どことなく歯切れの悪い返事をするリリカを残して、おれは創薬室にこもる。

 思い返してみれば、おれが興味ないだけで色々とあるんだよな、あの手の薬。

 果実のエキスを抽出したり植物性の油を取ったりと、おれは作業をどんどん進めていく。

 【シャンプー:髪の毛の汚れを取り除く効果がある】

 【トリートメント:髪の毛内部に浸透し補修。髪の毛にハリやうるおいをもたらす効果がある】

 【コンディショナー:髪にツヤを与え、毛先まで潤いをキープする効果がある】

 よし、一式が出来あがった。おれは瓶を持ってリリカのところへと戻る。簡単に使い方をレクチャーすると、

 「これで、私、ミナさんには負けなくなるのかしら……」

 何でミナなんだろう? けど、ミナも他の子の髪の毛触るの好きだったりする。

 『ノエラさんの髪の毛、さらさらでいいにおいしますぅ……(す~は~)』

 『においかぐ、ダメッ。へんたい。嫌っ』

 『あう、ノエラさーん、待ってください~』

 って、ノエラに逃げられているシーンを何度か見たことがある。

 リリカはそういうアプローチしていくワケだな? 髪の毛で会話の糸口を掴む、と……。

 「まあ、少なくとも今よりもずっと髪の毛にかける時間は減るはずだ」

 「ふうん。……せ、せっかくだから、使ってあげる」

 「おう。使ったあとの感想教えてくれよ? 改良するかもしれないし、そのまま商品に出来るかもしれないから」

 くるくる、と指に髪の毛を絡ませるリリカ。やっぱりおれと目を合わそうとしない。

 「ね、ねえ……? れ、レイジは……私が、キレイになると、うれしい……?」

 そりゃーおれが作った薬でキレイになってくれるんなら、やってよかったと思う。

 喜ぶ顔が見られるのが、薬屋をやっていて何よりのやりがいだったりする。

 「当たり前だろ」

 「っ。…………そう」

 「うん、応援してる」

 ぼ、とリリカの顔が真っ赤になった。

 「もぅ―! ど、ど、ど、どういうい意味よそれぇ―っ!」

 新薬三点セットを胸に抱いたリリカは、ばひゅーん、と店を飛び出していった。

 ◆Side リリカ◆

 町を出て森へとリリカは走る。

 「どういう意味よ、応援って。なになになに? ももも、もうもう、私の気持ち、バレバレだったってこと!? そそそそそ、それで、応援するって? え、え、え。でもでも、それって、知っている上で応援するって、それってそれって。もしかしてレイジも、私のこと? す、す……。……わぁあああああああああああん―どういう意味だったのよぉ―!?」

 わめきながら家に帰り、早速レイジからもらった三つの液体を試すことにした。

 「……あ。すごい……これ、すごいわ! さらさらでつやつや!」

 初日で既に効果を感じていたが、まだ顔を見るのは恥ずかしいから、しばらくドラッグストアから足が遠ざかるリリカだった。

 ◆Side レイジ◆

 一〇日後、リリカがやってきた。

 「……こ、こんにちは」

 「ミナならいないぞ? 買い物に行ってる」

 「し、知ってるわよ。そ、それを見計らって来てるんだから……」

 店には入らず、軽く腕を抱いておれのほうをチラリ。

 なんだ? 言いたいことがあるのなら……。ん? おお?

 元々キレイだった髪の毛に、さらに磨きがかかっている。髪の毛は、つやっっつやで光沢があって、しっとりしていた。さらさら過ぎたせいか、ほんのちょっとの風で一本一本がなびいているようにさえ見えた。

 その風で、甘い香りがふわりと漂ってきた。

 トリートメントに香りづけしたのはおれで、そういう香りがするって知っているのに、美貌と相まって、思わずくらりとしてしまう。破壊力がすごい……。

 「その……髪のケアをする時間も半分以下になったし……あなたが言った通り……仕上がりもすごくよくて……」

 「そいつはよかった。作ったかいがあったよ」

 「……」

 「……?」

 なんだ? リリカは髪の毛を少しかきあげて、耳にかける。

 「ど、どう……かしら…………?」

 「あ、髪の毛? すごくキレイになってて良いと思うぞ?」

 これなら、ミナも無視は出来まい。くんかくんかしたくなる髪の毛のはずだ。

 「ふ、ふうん…………そう…………ふうん……」

 それだけ言って、ずっとつま先を見つめるリリカ。

 立ち話もアレだから、とおれがイスをすすめても、

 「い、いいの……こ、ここで」

 「え? そう?」

 特に何かしゃべりもせず、ただ店先に立っているリリカ。むしろ気になる。

 おれが困っていると、ミナがぱたぱた走ってきた。

 「あ。リリカさん。こんにちはー」

 「こっ……こん……にちは……。そ、それじゃあ、私帰るから」

 やっぱり直に話をするのは恥ずかしいのか、リリカは足早に去ってしまった。

 一度リリカを振り返ったミナは、少し荒くなった息を整えている。

 「ミナ、どうした?」

 「お財布を忘れてしまいまして……」

 もう一度、ミナはさっきまでリリカのいた場所を振り返った。

 「リリカさんは、どういったご用だったんです?」

 お。反応アリ……?

 「新薬の感想と……あとは……色々」

 「レイジさんが怪しいです……何か隠し事してませんか?」

 じろーとミナが見てくる。

 おれは慌てて誤魔化しながら、奥に逃げる。

 ミナの財布をとってきて渡した。

 「あ。ありがとうございます」

 ぺこっと頭をさげたミナは、また店から出ていった。

 リリカ、上手くいくといいな。

 おれは、うんうんとうなずき、遠ざかるミナの背中を見送った。