異世界に再召喚された勇者の隠密できないアサシン無双 序章

序章 派手な力に哀れみを

 「──なぜばれた」

 今回は完璧だったはずだ。

 力も抑えるだけ抑えたし、服装だって黒めの格好で、なるべく地味にした。顔だって、いつものように黒い仮面を被って隠している。有名になってしまった俺だとわかるわけがないのだ。

 ところが結果は俺の望んだものではなかった。

 ──大勢の敵に囲まれていた。

 黒装束やぼろ切れのような衣服の男たちが、長剣や槍を手にして俺たちを睨みつけている。

 「サスケ様、どうするの?」

 隣にいた少女が、そう呼びかけて俺に話しかけてくる。

 とても美しい少女だ。長い銀髪は星が瞬いているように小さな背中の上を流れていた。金色の瞳は宝石のような輝きを放っている。布の上からでもわかる、ほっそりとした身体は風が吹いてしまうだけで折れてしまいそうだ。彼女は俺と同じように黒いぼろ切れの布を頭から被り、姿を隠していた。

 「お師匠様(仮)、申し訳ありませんが、ばれるのは当たり前かと」

 隣にいた青年がため息交じりに言ってくる。赤い短髪にきつい眼差しは、どこか刺々しさをまとった猫を彷彿とさせる。

 すらりと伸びた長身に端正な顔立ちのため女性ならば、あっという間に虜になるだろう。俺からしたら嫉妬するくらいの外見なのだが、そうならないのは──

 「地味な格好だから問題ないと思ったのでしょうが、一番敵の多い経路をわざわざ選んで敵のアジトに突っ込むのはやりすぎです。気配を隠すか、少なくとも隠れるくらい……最低限の努力はすべきかと。それもせずに堂々と走りながら正門から向かうとか。後ろから、ついていきながらも、さすがに足音を消すくらいのことはするかと思っていましたが……」

 本当に、こいつは人の気持ちを考えない奴だ。

 青年はサーベルを手にして黒装束の敵たちと対峙しながら言葉を続けた。

 「通常、隠密行動を取るべきところを何一つなさらないのは、正直驚きました。とどめは爆音を伴う火薬の暴発です。なにゆえ、正門前でそのようなことをなさったのか、何をお考えなのかは、さすがの私でもわかりませんが……」

 正論ゆえに辛口だ。こいつは見た目が良くても、このように中身が残念なのだ。

 「ば、爆弾で侵入経路を作るためにどこかを壊そうと思ったんだよ。ただ正門まで爆発するとは思わなかっただけで……」

 困惑しながら、そう答えると青年は緩やかに首を横に振った。

 「そもそも愚直に突入しようとする考えを改めた方がよいかと」

 「だったら、やる前に止めてくれ」

 そう俺が突っ込むと青年は近づきつつある敵を警戒しながら言ってくる。

 「まさか、なぜ、誰がお師匠様(仮)の行動を止められましょうか。挑戦しようとするお師匠様(仮)の気持ちを尊敬しております。その勇敢極まりない気持ち、勉強させてください」

 そんな青年の反応にげんなりした。

 銀髪の少女がショートダガーを構えながら低い声で口を挟む。

 「突っ込むだけ突っ込むくせに全肯定するとか、正直な話、まったくよくわからない思考回路をしているよね。ボク、キミのことだけは本当に理解できない」

 「理解できなくて結構。貴様との相互理解を断固拒否する」

 「二人とも、いい加減にしろ」

 そう俺が言った途端、周囲の敵が飛びかかってきた。

 「敵が来たよ、どうする? サスケ様」

 小さく呻く少女を見て俺はフゥと息を吐く。

 「……少し黙っていてくれ」

 そう言いながら俺は指先に力を込めた。自分の力が、なるべくばれないように注意しながら、周りの敵に向かって爆風を撃ち込んだ。

 ドカンッと豪快な音と共に地響きが生じる。

 「俺は今、こいつらと話したいんだ。邪魔をするな」

 ぐたりと倒れ伏した敵たちに向かって言い放つ。

 だが力を抑えることに失敗してしまったようだ。夜闇に響く轟音と周囲を巻き込む突風に、ああ、またやらかしてしまったと慌てふためいてしまう。

 隣の少女がうっとりとした眼差しで言ってくる。

 「ああ、さすが、サスケ様。こんな一瞬で敵を倒すなんて。好き、尊い、愛してる……」

 「素晴らしい、お師匠様(仮)。ばれたあとの後始末も派手だとは。完璧です」

 盲目的に自分を褒め称える二人を前にして、俺はアジトの明かりが全部ついてしまったのを確認して頭を抱えた。

 「本当、どうするんだ、これ」

 俺のせいだ。力を抑えたつもりだったが派手にやりすぎてしまったようだ。

 「尊いサスケ様。……向かってくる敵、もっと倒しちゃう?」

 少女はワクワクしながら俺に話しかけてくる。

 「いやいやいや、敵を倒すのが今回の目的じゃないから」

 自分でやらかしたこととはいえ、顔をしかめて返答する俺に対し彼女は、キラキラと目を輝かせながら言う。

 「サスケ様のどんな行動でも尊いのでボクは大丈夫、平気」

 「何が平気なんだ。そういう問題じゃない」

 「まあ、お師匠様(仮)のせいですからね。あなた様の問題ですよね」

 「お前も冷静に突っ込むな‼ そこまでわかっているなら、俺が動く前に何とかしろって何度も言わせるなよ!」

 「いえ、だってせっかくのあなた様のお力ですから。是非、目の前で拝見したいのです」

 「あああ、もう。わけがわからない」

 頭を抱えたまま振り返れば、アジトの方から騒がしい音が聞こえてきた。

 俺たちが見つかるのも時間の問題だろう。

 「仕方ない、逃げるぞ」

 そう言うと二人は嬉しそうに大きく頷いた。

 俺は二人を引き連れてアジトの前にある森の方へと駆けだした。

 アジトから大勢の人が出てくる気配を感じながら足を速める。

 いつになったら、俺は隠密者らしい行動ができるのだろう。

 なぜ、俺は隠密行動を取れないのか。

 なぜ、隠密者見習いの俺がこんな目立ってしまっているのか。

 その原因に想いを馳せながら、絶望した気持ちとともに空を見上げるのだった──