異世界に再召喚された勇者の隠密できないアサシン無双 第二章(2)

 村の外、森の奥深く進んで、少し開けた場所まで連れて行かれた俺は、乾いた笑いを浮かべながらサイフォンと対峙する。

 「用件はわかるか?」

 そう問いかけられて俺は肩をすくめて首を曖昧に振った。

 「やっぱり、俺が未熟なのに弟子見習いになっているのが気にくわないってことか?」

 「……」

 そんな俺の言葉にサイフォンは遠くの空を見上げながら無言のままでいる。

 ため息をついた俺は低い声で言った。

 「余計な言葉を口にするつもりはないってことか?」

 「……ああ、私と勝負をしてほしい」

 そう言いながら彼は、サーベルを構えて俺に向けてくる。

 「貴様は力がどういうものか知っているか?」

 「はあ?」

 急によくわからないことを話し出した。戸惑う俺を無視して彼は言葉を続ける。

 「私は、本当の力がどういうものか知らない。そんなものは、本物の強者だけが至れる境地だと信じている。つまり今の私には、到底、理解の届かないものだ」

 「だから?」

 そう俺が問いかけるとサイフォンは一歩前へと踏み出した。

 「貴様にはわかっているのではないか? 本当の強者だけが届く高みを。そこから見える光の輝きを。目の前に広がる特別な光景を」

 「い、いや、わからないよ……」

 光とか、高みとか。急にわけのわからないことを言い出したぞ。こいつは、もしや実は電波むんむんのアレな男なのか。まったく、そう見えなかったが。

 「なぜ、嘘をつく? 貴様は私には見えないものを知っている。それを是非教えてもらいたいのだ」

 「い、いや、俺、本当、お前の言いたいこと全然わからないから!」

 「嘘だな。どれだけ隠していても私にはわかるぞ。貴様は強い。あの湖の蒸発も、魔物を倒したのも全ては貴様がやったことだろう。我が師も見抜いていたが、あえてはっきりとは言及しなかったようだが……。だが私は見逃すつもりはない、貴様の力の強さを」

 「だから俺の力をはかれる機会を、ずっと窺っていたというわけか?」

 「そうだ。ようやくこうして、あの女を追い出すことができたのだ。我が師のことも確認する必要はあったから一石二鳥というもの」

 さらりとマスルールのことを配慮するあたり、やはり悪い奴ではないのだろう。

 「俺と戦って力を確認したいというなら、そう言えよ。電波……いや、意味不……難しいこと言われても意味がわからないから!」

 俺が今、サイフォンに感じている気持ちごと、思わず本音を漏らしそうになり、慌てて言い直す。

 「本物の強さの領域に達して、そこから光に溢れたものを見てみたいというのも私の願いだ。貴様と戦えば、それがわかる気がする。……今は、その本能に身を任せるべきだと感じたのだ」

 「つまり、俺の弟子見習いの立場が気にくわなくて喧嘩を売っているわけじゃないんだな?」

 「そんなことは、どうでもいい!」

 「……は、はあ」

 嫉妬とかではなく、単に俺に、俺の力に興味があるのか。好奇心なのだろうか。

 いや、違うな。光とか高みとか、毎回、似たような単語を口にしている。それに、届かないとも。彼にはどうも憧れる何かがあって、それに俺が到達しているように見えているということなのだろうか。

 それも何か違う気もするが。どうにも、よくわからない。

 「ただ私は貴様と戦いたい。貴様の強さを確認したい、浸りたい! この身に全てを受け止めたい! さあ、もう話は終わりだ。……いかせてもらう」

 そう言いながら彼は踏み出す足に力を込めた。

 彼の考えは意味不明だが、拳と拳でわかりあうというのは嫌いじゃない。

 「でも、こうして戦いあうとしても俺の隠密能力のなさが露呈するだけで、お前の気が済むとは思え……」

 言葉を止めて、寸前で振り下ろされたサーベルをかわす。

 喋っているのに攻撃してくるなんてマナーが悪すぎる。苦笑して俺は後ろに跳躍した。

 俺の熱制御は相手に近づく必要がない。だから相手の攻撃範囲に居続けるのは単なる馬鹿だ。

 彼は、まるでステップを踏むような足取りで、素早く俺との距離を詰めてくる。

 熱風を生じさせた勢いで後方に飛びながら、俺は詰められた分だけ距離を確保する。

 熱制御の力がばれると、俺が魔王を倒した勇者だとばれてしまう。だから能力がばれないようにしながら、彼が大けがを負わせないように気をつけて戦わなければならない。

 どう対応すれば一番よいだろうか。

 「いつまで……逃げるつもりだ……!」

 苛立った彼の声に、俺は疲れたように息を吐き出した。

 別に逃げているわけではなく、どのように反撃しようか決めるまでの時間稼ぎだ。

 とはいえ、いつまでも追いかけっこを続けているわけにはいかない。

 苛立ったサイフォンも同じことを思ったのだろう。俺に背を向けて、そのまま明後日の方向に走り出した。

 一体、何をするつもりだ?

 するとサイフォンは広場の端にある細い木に向かって跳躍した。

 その木が彼の体重で強くしなる。そして、その木をバネのように利用して勢いを加え、俺に飛びかかってきた。

 凄まじい速度のため俺は十分な対応ができない。彼のサーベルをそのまま籠手で受け止める。

 「……ぐ……」

 小さく呻きながら力を込めて彼を押し返した。

 もう一度、サイフォンは力を込めてサーベルを振り下ろしてくる。

 俺は周囲に強い熱風を起こして、風の力で彼を吹き飛ばした。彼は空中で器用に回転すると、上手に受け身をとり地面へと降り立つ。俺が前回の召還時に鍛えてなければ、無傷では済まなかっただろう。

 再び俺は彼と距離をとる。

 そろそろ、こうしてサイフォンと追いかけっこしたり、斬り合って受け止めるのも飽きたところだ。正体がバレる前に片をつけなければ。

 「と、なると……」

 俺は指先に力を込めた。空を見上げて、そこに指を向ける。

 ──同時に目を固く閉じた。

 瞬間、辺り一面に眩い光が広がる。

 一箇所に集中して熱を生じさせ強い光を作り、相手の視界を奪ったのだ。目に見えなければバレないし、いくらでも対処のしようがある。

 その上で俺は、サイフォンのサーベルの傍で小さな爆発を起こした。

 その衝撃でサイフォンの身体が勢いよく吹き飛んでいく。

 地面に叩きつけられた彼は「かはっ」と呻き声を上げると、痛みで身体を曲げていた。

 だが双眸には闘志が宿っている。

 ああ、この程度では駄目か。すぐにそう判断した俺は、閃光が消える間に、もう一度彼の傍で小さな爆発を起こした。今度の爆発は悲鳴や呻き声すら、かき消された。

 閃光が収まると、そこには地面に倒れ伏した彼の姿が見える。

 肉の焦げたような臭いと、プスプスとした白い煙があちこちから出ていた。

 なんだか、やばそうだ。自分のしたことなのだが、だんだん怖くなってきた。

 ピクリとも動かない彼が心配になり、恐る恐る近づく。

 「だ、大丈夫か?」

 だが動かない。やばい、やりすぎてしまったのか。

 身体をガタガタと震わせていると、彼の頭が痙攣するかのように小さく動いた。

 生きているようだ。

 安心した俺は再び「無事か?」と声をかける。

 「ああ、やはり……あなた様は、お強いのですね」

 「──は?」

 彼は飛び跳ねるようにして身を起こした。土下座するようにその場に膝をつけたかと思うと、俺の足に縋りついてきた。

 「な、なにするんだ、いきなり!」

 かなり元気じゃないか。何度も至近距離から爆発を起こして、彼もそれに巻き込まれたはずなのに、なぜかピンピンしている。

 「親愛の情です。是非、その強さを私に勉強させていただきたく」

 「ふぅん」

 そう言いながら俺は冷たい眼差しで告げた。

 「──そう言いながら、お前、本気を出していないだろ。見ていてわかるんだよ」

 俺は試練のときにサイフォンが俺にもわからない力で、マスルールから鍵を盗み出したのを知っている。今回の戦いに、その力の片鱗はなかった。

 「それは違います!」

 ガバリとサイフォンが顔を上げた。縋りつく手に力を込めてくる。

 「あなたの強さに対して、私も同じ強さを見せようとしただけです! たしかに、まだ私には見せていない能力がありますが、それは決して本気を出していないわけではありません!」

 「いやいやいや……そ、それは本気じゃないってことなのでは……?」

 「違います! 断じて! あなたに見せないのは、私の能力が深い闇の底に沈んでいるからです。あなたのように光り輝く力とは異なる存在……そう、そこは暗く淀んだ果てのない泥沼……誰かに見せられるようなものではない。ゆえに、あなたにさらけ出すことが恥ずかしく感じてしまうのです! もし見せるとしたら、私があなたと同じ高みに登ったときくらいなもので……!」

 フンフン鼻息を荒くしたサイフォンがポエムめいたことを口にしながら必死に否定している。

 「はあ、意味がわからん……」

 よくわからないが、これ以上、突っ込んではまずそうな雰囲気だ。そっとしておこう。

 「……それはいいとして、身体は平気か?」

 「私のことを心配してくださるのですね。ありがとうございます。涙が出てしまうくらいに嬉しい所存です」

 そして彼は本気で泣き始めた。男が嗚咽する姿はみっともない。しかも彼の手足は火傷して、衣服のあちこちは焼け焦げている様子だ。どうしていいかわからないが、放置していい状況じゃない。

 「いやいやいや、泣く元気はあるんだから、問題ないと思っていいか?」

 「問題ありません。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

 サイフォンは足に縋り付いたまま、涙を流して、そう答えてきた。

 「問題ないならいいけど……。急に敬語を使い始めて態度が変わったし、頭は大丈夫か? 目眩や聞こえづらいといった症状は出ていないか?」

 「問題ありません。態度を変えたのは私の心の底から出ている真の気持ちだからです。決して頭がおかしくなったわけではありません」

 「う、うん、ならいいんだけどさ」

 俺からしたら、頭に強い衝撃が加わって、おかしくなったようにしか見えない。気持ちが悪いから今まで通りに戻してほしい。でも彼が素直に聞くとは思えない。

 「と、とりあえず体調に問題ないなら離れてくれるか?」

 「わかりました、離れます」

 ようやく彼は俺から離れてくれたが、引き続き正座して俺を見上げている。

 「あなたの強さに感服しました。あなたから感じる威圧感、強き者が持つ独特の空気……試さずとも間違いなく強いと気づいてはいたのです。それでも、その強さを肌で感じたい欲求を抑えられなかった……あなたに迷惑をかけてしまい、大変申し訳ありません」

 「いやいや、全然気にしてないから、お前も気にしなくていいよ。それより敬語ではなく今まで通りだと嬉しい」

 「申し訳ありませんが拒否します」

 「──は?」

 呆気にとられていると、彼が早口でまくしたてるように答えた。

 「私は既にあなたを心の師匠と仰いでおります。マスルール殿に続く第二の師匠」

 「いや、そういうの困るから」

 「なぜですか? あなたは既に、ファナの精神的な導き手になってほしいという望みを受け入れているはず。私を受け入れない理由がわかりません」

 どこでこのことを知ったんだ? あの場にこいつはいなかったはずだけど。あのとき、こいつはあとで俺の部屋にやってきたふうを装っていたが、実はずっと気配を消してファナと俺のやり取りを盗み聞きしていたとかなのか。まさかそんなことはないと思いたいが、もし、そうなら正直、怖すぎる。

 「事実と違うが、そこを突っ込まれると困る」

 「そうでしょう。私はあなたを困らせたいわけではありません。単に私があなたを師匠として尊敬する心の自由をお許しください……ですが……」

 そこで彼は首を傾げながら言葉を続けた。

 「あなたが戸惑うのもわかります。マスルール様と区別をした方がいいので、あなたのことはお師匠様(仮)と呼びましょう。こちらでどうでしょうか」

 お師匠様(仮)ってなんだ。だいぶ失礼じゃないか。暗にディスられているかと思ったが、これ以上拒否すると、もっと状況が悪くなるかもしれないので俺は諦める。

 「じゃあ好きにしていいよ」

 そう肩を落としながら言うと、彼は嬉しそうに頬を緩ませた。

 「とりあえず手当をしよう。そのあと近辺の村から魔物について聞き込みでもしてみるか」

 そう言うとサイフォンは頷いてゆっくりと立ち上がるが、どこかふらついている。

 村の人にお願いして早く手当をした方がよさそうだし、こうしている間に、魔物が村に襲いかかるかもしれない。

 俺たちが急いで村に向かっていると、息を荒げて目を血走らせているファナと出会った。

 彼女の様子を見るに、ただ事ではないことが起こったのだろうか?

 「サスケ様、探したんだよ! どうしてこんな場所にいるのかな! 魔物退治していたようにも見えないし……!」

 彼女は俺たちを見て驚いた。

 「わぁっ、なんでサイフォンさんが怪我をしているのかな?」

 彼女はサイフォンの火傷や怪我に気付き、驚いている。

 俺の仕業だ。申し訳ないが、俺が口を開くより先にサイフォンが前に踏み出た。

 「お師匠様(仮)に稽古をつけてもらっていたのです。貴様には関係のないこと」

 慇懃無礼すぎる。それに話がややこしくなってしまう。

 アワアワしている俺の前で、ファナが目をパチパチさせながら俺とサイフォンを交互に見る。

 「お師匠様(仮)? え? なにそれ? 誰のこと?」

 「サスケ様のことです。彼以外に誰がいるのですか?」

 「ど、どうして? いつ、そうなったのかな?」

 「つい先程です。貴様のいない間に。……私がサスケ様をお師匠様(仮)にしたのは運命、本能のようなものです」

 「運命? 本能? え? 何の話なのかな?」

 彼女の態度は当たり前だ。俺だってそう思う。意味がわからない。

 「ふん、貴様ごときには理解できまい」

 「え? 今、ボク、さりげなく、ひどく言われていないかな?」

 「気のせいではなく、事実を伝えたまでです」

 そうはっきり言われてしまい、ファナが信じられないといった形相で目を丸くしている。

 慌てふためいた様子で俺に顔を向けてきた。

 あまりこちらに助けを求めないでほしい。正直、俺も意味がわからない。

 「サイフォンさん、いきなりおかしくなっちゃったみたいなんだけど、どうしちゃったのかな。サスケ様は理由を知っている?」

 ファナが震える唇で尋ねてくる。

 「理由はわからないけど、多分俺のせいだ」

 「いいえ、お師匠様(仮)のせいではありません。先ほども申し上げたでしょう。私があなた様を師匠にしたのは運命そのものです。逃れられない宿命です!」

 サイフォンが話に割り込んでくる。話をややこしくするだけだから黙っていてほしい。

 「……ま、まあ、ボクに実害がなければ、サスケ様をお師匠様扱いするくらいなら、別にいいかな」

 そのくらいなら、いいのか。

 ファナは複雑な顔をしながらも態度を急変させたサイフォンを受け入れたようだった。

 俺としては、もっと抵抗して、変になったサイフォンを元通りにしてほしかったのだが、仕方ない。

 「そ、それはそうと大変なんだよ! こんな、くだらない話を長々としていられる暇なんてないんだよ!」

 ファナが握りしめた拳を上下に振り回しながら言った。

 「我が師がどこにもいないんだよ! あの変な男と宿の一室に閉じこもったまま出てこなかったの! それどころか……!」

 狼狽した様子で俺に掴みかかりながら叫んだ。

 「とにかく大変なんだよ! お願い、ボクと一緒に来てよ!」

 どうやら、かなり緊急事態のようだ。

 俺とサイフォンは顔を見合わせながら、ファナの言葉に従うことにした。

 * * *

 俺たちは宿泊していた宿、マスルールの滞在していた一室の前にやってきた。

 鍵は無残に壊されている。

 「これは……?」

 そう俺が問いかけると、ファナが焦燥感を滲ませながら答える。

 「ボクが壊したんだ。いつまでたっても二人が出てこないから、それで……」

 「隠密者なら、鍵を壊さずに開けることもできたでしょうに。まったく無様な」

 サイフォンが突っ込んでファナが表情を曇らせたまま俯く。

 彼の言う通りだが、それだけファナにとっては一大事だったのだろう。彼女がどれだけマスルールを尊敬して大事に想っているかがわかる。

 サイフォンは躊躇う様子を見せずに扉を開けて部屋に入った。

 目の前に広がった状況に俺は息をのんだ。

 マスルールもアーサーもどこにもいないばかりでなく、代わりに赤黒い血が床に広がっていた。窓は開いていて強い風が部屋に入り込み、そのせいで室内はひんやりとしていた。

 「一体、何が……?」

 サイフォンが目を見開いて床の血を凝視している。

 「こんな状態なんだ、どうしよう。我が師がどこにもいなくなっちゃった。何があったのかな。ボクたちはどうしたらいいのかな」

 ファナは混乱しているようだ。小刻みに身体を震わせて、顔が青ざめている。

 「血の乾き具合からみるに、それなりに時間が経ったあとのようだ。怪しいとしたら、直前に出会った、あの金髪碧眼の男だろうな。たしかアーサーと名乗ったか……」

 サイフォンがしゃがみ込み、床の血を指ですくい上げながら言った。

 「だが、ああやって姿を見せたあとでマスルール様に何かしたら、自分が犯人だと言っているようなものじゃないか。さすがに、それは馬鹿じゃないか」

 そう俺が返答するとサイフォンが立ち上がって顎に手を添えながら首をひねる。

 「それはそうですが……」

 「勇者ギルドに捜索依頼を出した方がいいのかな」

 ファナの呟きにサイフォンが首を横に振った。

 「貴様、我が師がいなくなって混乱しているのはわかるが冷静になった方がいい。ここで勇者ギルドに借りを作ってしまうのは隠密者として得策ではない。そもそも勇者ギルドは村に頼まれた魔物退治すら、まともに対応していないのに、我々の仕事をしてくれるわけがない」

 「だからといって何もしないままではいられないよ。じゃあ周囲の村で情報収集しようよ。もしかしたら何か手がかりがあるかも」

 ファナがポンと手を打ちながら返答する。

 「手がかりなら、気になる点がある……」

 そう言いながら俺は、乱れていた絨毯をめくった。絨毯には手が加えられた形跡があった。

 そこには赤い血で歪んだ丸い円のような模様が描かれていた。

 一体、これは何なのだろうか。ゲームや漫画でよく見かける魔方陣にも見える。それにこの模様をどこかで見たことがあったのだが、思い出せない。

 俺が不思議だと首を捻っていると、サイフォンがポツリと呟いた。

 「この模様、どこかで見たことがありますが……すぐに出てきません。日頃、集めている情報に不足があるようです。大変申し訳ありません」

 俺と同じような考えをサイフォンも言っている。

 「いや、ボクも心当たりがないから、サイフォンさんが謝ることじゃないよ。それにしても、こんなわざとらしく痕跡を残して何のつもりなのかな? 目的が見えてこない。一体、我が師はどこにいったのかな? この血の意味はなんだろう?」

 そうファナは首を傾げていたが、すぐに真剣な顔になって顔を上げた。

 サイフォンも同様で、険しい顔で開いた扉の方を見つめている。

 「え? なんだ?」

 俺が戸惑っていると、遠くから複数の足音が聞こえてきた。

 誰かが、こちらに向かって来ているようだ。サイフォンが服の下からサーベルに手をかけ、ファナも鞄から針を出してきた。

 マスルールたちの行方を知っている者たちだろうか。

 俺たちは構えていたが、やって来た者たちを目にして俺は、構えを解いた。

 そこにはヨスガ、ラタなど、先ほど俺たちに悪態をついた勇者ギルド〝栄光の翼〟の面々が、揃っていたからだ。

 「……遅かったみたいね。あなた方も、私たちも」

 そう言いながらヨスガは艶やかに輝いた金髪をかきあげて耳にかける。

 ヨスガ? なぜ、勇者ギルドのギルド長がこんな場所に?

 驚愕している俺たちを前に、ヨスガが凛とした笑みを浮かべた。