チート薬師のスローライフ2(1)

〜異世界に作ろうドラッグストア〜

1 扱い注意

 ジラルから借りた畑で、栽培する薬草を数種類増やした。

 栽培エースという便利スキルのおかげか、どれも多年草ということもあって植えた薬草たちはすくすく成長していき―ついに本日収穫するに至った。

 ふいー、と汗をぬぐって摘んだ薬草を入れたカゴを見る。

 この調子でいけば、危ない魔物や獣が出る森に入らなくても自給することが出来る。

 もちろん、栽培していない薬草が必要ならその限りではないんだけど。

 薬草自体を余所の薬屋に売ることだって出来る。

 おれがどれだけ誘っても、忌避剤のせいでノエラはここに断固として来ようとしない。

 仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、一人で黙々作業するっていうのも、ほんの少し寂しい。

 少し離れた所で畑仕事に汗を流すおじさんやおばさんが、とんとんと腰を叩いている。

 「やっぱり、いつもの道具じゃないとダメだねえ」

 「修理に出してからもう二週間にもなるのに……まだ直んないのかね」

 どうかしたのかな。

 「こんにちはー」

 「あぁ、薬屋さん、こんにちは」

 おじさんが帽子を少し脱いで会釈する。

 「どうかしたんですか?」

 「ああ。クワをね、道具屋に修理に出したんだけどそれがまだ戻ってこないんだよ。コイツも使えないってわけじゃあないんだけどね」

 道具屋さんは雑貨と少し違って、ちょっとした刃物や防具を扱っている。

 おじさんが言ったように、道具の修理も請け負っている。

 大きな町に行けば、武器屋や防具屋ってわかれるんだろうけど、田舎町ではそれが一緒くたになっていた。

 おれにクワの良し悪しなんてわからないけど、長年やっているとすぐに違いがわかるそうだ。

 「いつものヤツのほうが使いやすいし、土をサクッと掘り返せるから、こっちもそれほど力を入れなくていいから助かっていたんだけど……」

 うーん、そいつは困るな。

 畑仕事は結構……というか相当疲れるし、早く修理から道具が戻ってくりゃいいんだけど。

 それから簡単に世間話をして、店に戻った。

 ダンッ、と発砲音にも似た凄い音がキッチンのほうからする。

 な、何の音だ? 音の聞こえたキッチンをのぞくと、ミナとノエラが料理をしていた。

 「ノエラさん! そんなにいっぱい力入れたら危ないですよー!」

 「ミナ、いっぱい、違う。これ、一割の力」

 包丁を持っているノエラが誇らしげに言う。

 「何でドヤ顔なんですか」

 「人狼、力、すごい」

 キメ顔でそう言うと、まな板に包丁をもう一度振りおろす。

 ダン―パキンッ!

 包丁が中ほどから真っ二つに折れた。

 「あー! だから言ったじゃないですか、ノエラさん。また包丁折って。レイジさんが知ったら怒りますよ?」

 「…………ミナ、内緒。これ、内緒。あるじには、内緒。よ、予備。予備の包丁、ある。あるじ、折れた、わからない」

 「その予備が、この今折ってしまった包丁です」

 「る―!?」

 「どうするんですか? 今日、お料理出来ないですよ?」

 「るぅ……」

 しょんぼりしているノエラが可哀想なので、声をかけることにした。

 「ただいま。どうかした?」

 二人がこっちを振り返る。

 「レイジさん、お帰りなさい。聞いてくださいよ、ノエラさんが―」

 「あるじ―」

 てててて、と涙をいっぱい溜めたノエラがおれに抱きついてくる。

 「ミナ、怒る……」

 「違うんです、ノエラさんが包丁を」

 「わかってる。わかってる。見てたから。ノエラが包丁折っちまったんだろ?」

 びくり、とノエラの肩が震える。

 「あるじ、怒る……?」

 「包丁の一本や二本じゃ怒らないから」

 「るーっ♪」

 ふりんっ、ふりんっ、ふりんっ。ふりふりふり。ふりふりふり。

 高速でノエラは尻尾を振った。

 もう、とミナは呆れたようにため息をつく。

 「レイジさん、お料理がこのままでは出来ませんので、包丁を買ってきていただけますか?」

 料理を作るのがミナの仕事ってところもあるから、それが出来ないと困るんだろう。

 それに、ご飯が食べられないとおれも困る。

 「じゃ、ちょっと行ってくるよ」

 そう言って店を再び出ると、ノエラもついてきた。

 何だかんだで、ノエラも責任を感じているらしい。

 雑貨屋にも包丁はあるけど、しっかりした物を買うならやっぱり道具屋のほうがいいだろう。

 道具屋にやってくると、手狭な店内には誰もいなかった。

 種類は少ないけど、刀剣や槍が壁に並んでいて、違う棚には籠手や胸当て、ヘルムなどが置いてある。

 「あるじ、これがいいっ」

 ノエラが目をキラキラさせながら、店で一番高価な長剣を持ってくる。

 「何で剣なんだよ。冒険に行くわけじゃないから。包丁、もしくは手頃なナイフがあれば……」

 おれは適当な値段でいて扱いやすそうな包丁を見つけ、それを二本買うことにした。

 にしても、全然店主が顔を出さないな。

 「あのー! こんにちはー? 包丁買いたいんですけどー?」

 ぺた。手が現れ、カウンターの上にのせられた。

 ひっ!? ほ、ホラーッ!?

 「う、うるさいなあ……大声、出さないでよう……」

 のそっと顔を出したのは、青い髪の眼鏡少女だった。

 すごく眠そうに、ズレた眼鏡の下にある目をこすっている。

 「修理の作業が立て込んでて……気がついたら床で寝てたよ……」

 ふぁあ、と伸びをする眼鏡っ子。畑でおじさんが言っていたのはこのことか。

 「あ。キミが、噂の錬金術師だね? ウチはポーラ。見ての通り、この店の主だよ」

 「錬金術師じゃなくて薬師だけどね」

 おれたちは軽く握手する。包丁二本のお代を渡した。

 「今は修理で忙しいの?」

 「忙しいよ、もうほんとに。あ。キミの作ったエナポ、夜にいつも飲んでる。助かってるよ、ありがとー」

 エナポ? ああ、エナジーポーションのことか。

 徹夜で作業をして店番ってなれば、そりゃ床の上で気絶することだってあるだろう。

 「赤猫団の防具の修理が入って、それから町の人から色々と細かな依頼があってね……ふぁあ……眠っ……」

 アナベルさんたちは、町の警備兵でもあるから、そっちを優先するのは仕方ないのかな。

 「どうやって直してるの?」

 「そりゃ、革を接いだり、鉄で補修したりだよ。一番やっかいなのは、鉄がパキンと折れて補修しようとしても、どうにもならないやつね? 買い直してくれるとありがたいんだけど、修理してくれって言うんだよ。こいつに一番時間がかかってる」

 「赤猫団は、貧乏傭兵団だからなあ……」

 修理の量が多いからポーラ一人で捌ききれず、どうしても他に手が回らず滞ってしまうようだ。

 「レーくん、なんかさ、ちょっと液に浸けたらぱっと直るスゴい物って作れないの?」

 レーくんって。そんな呼び方されるの、子供のとき以来だわ。

 「そんな魔法の道具みたいなもんは出来ないって。……ん? 『つける』……?」

 つける。つける……。……あ。作れる!

 「ちょっと待ってて! 出来るかもしれない!」

 「え? ほんと! 待ってる待ってる!」

 ノエラは……防具を試着して冒険者ごっこして遊んでる。

 ……まいいや。放っておこう。

 おれは道具屋を飛びだし、創薬室にこもり、とある液体を創薬した。

 新薬の入った小瓶を抱えて道具屋へ戻ると、カウンターの上でポーラが突っ伏していた。

 「おい、ポーラ。起きろ。出来たぞ。これでサクサク直るはずだ」

 体を揺らすとポーラが顔をあげてズレた眼鏡を直した。

 「んえ……? なに、もう出来たの? ええっと、修理はあっちでやってて……」

 案内されて、奥の小部屋へ行く。

 そこには大小様々な道具があって、修理中の籠手や修理予定の防具が置いてあった。

 ノエラを呼ぼうと店を見ると……。今は勇者VS魔王を一人二役でやっていて忙しそうだった。うん、放っておこう。

 「この籠手に手こずっててねえ……あのキレイカッコイイ団長さんのなんだけど」

 アナベルさんの籠手は元々赤かったんだろうけど、たくさん傷がついていて、少し色も薄くなっていた。けど、新品よりもこっちのほうが、味があってカッコイイ。

 何が壊れたのかは、すぐにわかった。赤い鉄板のひとつがキレイに折れていた。

 破片も揃っているから、すぐに直るだろう。

 「サクサクって直るの?」

 「うん。見てて」

 おれは新薬の瓶の蓋をあけて、絵筆を突っ込み、ペトペトと折れた個所に塗って、破片をくっつける。

 「く―くっついたぁあああああああああああああっ!? うぇええええええええ!? なんで、なんでなんで? 一瞬じゃんっ! すごぉおおおおおおおおおおおおおおおいっ!」

 【超強力接着剤:凄まじい粘着力で物体同士をくっつけ、凝固する液体】

 瞬間接着……とまでは言わないけど、少しの時間放置すれば取れなくなる。

 「……は!? でも、待って待って。すぐ取れたら意味ないんだよ?」

 「こっちを持って?」

 おれはポーラに籠手を持たして、おれは破片側を持つ。

 お互い、全力で引っ張った。

 「ふぬぅううううううぁああああ、ふうぅううううう、にゃぁあああああ!」

 「―らぁああああああああああああああ!」

 はぁはぁ、とおれたちは肩で息をする。

 「ぜ、全然取れないよ……なにこれ、すごい……」

 「だ、だろ……?」

 「これで作業スピードがグンとあがるよ、ありがとう、レーくん!」

 おうよ、とおれが息を整えながら言っていると、置いていた接着剤がなくなっている。

 瓶を見つけると、冒険者風の装備をしているノエラが手でぺちょぺちょ、と人差し指と親指をつけたり離したりして遊んでいた。

 おい。その動き、まさか……。

 ぺちょぺちょ。ぺちょ……ぺ……。かちん。

 「る? …………~~ッ! ……? ~~ッッ!!」

 真っ赤な顔をして力を入れるノエラ。

 何度か繰り返して、助けを求めるようにこっちを見た。

 指は輪を作っていてOKマークの状態だった。

 「あるじ……大変」

 「でしょうね」

 作業に入っているポーラの邪魔になるから、おれたちは小部屋を出ていく。

 「レーくん! あとでお礼しに行くからね!」

 「了解!」

 「あるじ、あるじ。指、指が」

 ぺちょ、ぺちょ、とノエラがおれを触る。

 「よく知らないまま薬を触るからそんなことになるんだろ? ……ん? ぺちょぺちょ?」

 なんかあったかいな、と思ったら、OKのほうの手が、おれの手をぎゅっと握っていた。

 「あれ……離れない。…………ノエラ、まさか」

 「とれない。……あるじ、ノエラとくっついた!」

 まさかの二次被害!! なんか嬉しそうだな!

 「おおおおおい!? どうすんだ! 風呂もトイレもベッドもずっと一緒じゃねえか!」

 「るーっ♪ あるじ、一緒。ずっと一緒」

 嬉しそうに尻尾を振って目を輝かせているノエラ。

 「風呂もだぞ? トイレもだぞ? 全部見ちゃうんだぞ?」

 ノエラはちょっとだけ考えると、OKの手をおれの前にあげた。

 あ。オッケーってこと?

 「なに便利に使ってんだ」

 もうこりゃ剥離剤作るしかないな。店に戻ると、ミナがご飯を作って待っていてくれた。

 一旦帰ってきたときに包丁を渡しておいたから、それで調理が進んだみたいだ。

 「お二人ともお帰りさないー。ずっと手を繋いじゃって、どうしたんです?」

 「ノエラ、薬であるじとくっついた。お風呂、トイレ、ベッド、一緒」

 「えぇぇぇぇ~っ!? だ、ダメですよ、そんなのっ! えっちです! べ、べ、ベッドも一緒だなんて……えっちなことはダメですっ!」

 「えっち、違う。それ、考えるほうが、えっち。……ミナ、一番えっち」

 びし、とノエラが直球で言うと、「はぅ~~」とミナが顔を手で覆った。

 「ミナ、一体何を想像したんだ?」

 「あるじ、えっちなこと。ミナ、えっちなこと、想像した」

 「ああ、だからか。ダメって言っているのに、一番えっちなのはミナなのか」

 「ふわぁああああああああん。二人がいじめますぅ~!」

 涙をちょちょ切らせて、えっちなミナは部屋から出ていった。

 ちょっとからかい過ぎたかな。

 もちろんそのままでいるのはおれとしても嫌なので、剥離剤を創薬して、無事におれとノエラは離れることが出来た。

 翌日。

 青い髪の知的そうな女の人が店にやってきた。

 眼鏡をかけていて、清楚なロングスカートをはいている。

 「レーくんのおかげで今日はたっぷり眠ることが出来たよ、ありがとー!」

 誰だ、このお姉さん。眼鏡……青い髪……?

 「あれ、もしかしてポーラ……?」

 「うん、そうだよー? なになに、忘れちゃったのー? 昨日会ったばっかじゃーん」

 ポーラは屈託のない笑顔をのぞかせる。ちゃんとしたら、こんな感じになるんだ。

 「いやーあれからさ。あと二か月くらいかかりそうかなーって思ってた仕事がね? ちゃちゃっと終わっちゃったんだよ! すごいよねっ! あの薬! それとそれとすぐに作ちゃったレーくんも!」

 お代を多めに置いていったポーラは店を出る間際、

 「暇なときはまた来るからっ。にしし、じゃーね!」

 ぱちん、と可愛らしくウィンクしてポーラは去っていった。

 あっちの店で見かけたのと全然印象が違う。元気なお姉さんって感じの人だ。

 赤猫団の防具も直ったみたいだし、きっとおじさんのクワも直っただろう。

 というか、ウチの店を暇つぶしに使わないで欲しい。

 いつもよりも何倍も良いことをしたような気がするから、気分もちょっと良い。

 簡単な仕事を済ましてカウンターの席につく。

 お客さんがやってきて、おれは挨拶した。

 「いらっしゃいませ!」

 キリオドラッグは、今日ものんびり営業中なのである。