チート薬師のスローライフ2(2)

〜異世界に作ろうドラッグストア〜

2 田舎に彼らはやってこない

 「一応さ、来ないってわけじゃないんだよ。ああいう手の人たち」

 「そうなの?」

 自分の店が暇なのか、ポーラがこっちの店にやってきて、なんだかんだ愚痴をこぼしはじめた。

 眼鏡をくいっとあげて、ため息をひとつこぼす。

 ああいう手の人たちっていうのは、冒険者のことだ。

 「来るのは来るんだけどね、店の中を見て、商品を見て、すぐに出ていっちゃうんだよねー。田舎の道具屋ショボーって思ってるのが顔に出てんだよー」

 そりゃ、武器屋と防具屋を兼ねているんだから仕方ないだろう。

 栄えている町の店に比べられちゃ、どうしたって見劣りする。

 「あ。ポーラさん、いらっしゃいませ」

 ミナが顔を出すとポーラは手を振った。

 「いらっしゃったよー。ミナちゃんは今日も可愛いねえー」

 「ポーラ、なんかおっさんみたいだな」

 あはは、とミナは両手を振る。

 「そんなことないですよ~」

 「どう? このあと私と遊ばない?」

 「ウチの店員ナンパするのはやめろ」

 反応に困ったミナは苦笑する。

 「あのぅ、レイジさん、お茶をお出ししたほうがよろしいですよね?」

 「いいって、すぐに帰るんだから」

 「レーくん、そんなこと言うなよぉー」

 唇を尖らせてポーラが抗議する。

 「お店を持っている者同士さー。積もる話もあるじゃんか?」

 「もうないって。毎日毎日、来たらそりゃ尽きもするわ」

 小さく会釈してミナが奥へさがった。

 「ウチだってね、イイ品揃えてるんだよ、レーくん。それをさー」

 「話続けるのかよ。自由だな……」

 おれが呆れていると、ポーラは気にせず話をする。

 「ちゃんと見たら、それなりの装備ではあるんだよ? よく見ずに出ていっちゃうんだもんなー」

 「ポーラの店って、手狭だし全体的に物を置き過ぎて暗いんだよ。道具屋っていうよりは骨董品店みたいな雰囲気出てる」

 「うぇええ? そんなことないよ。お店の商品、ちゃんと磨いたりしてるんだよー?」

 「それであのレベルなのか」

 磨いていたとしても、あまり見栄えがよくない印象だった。

 一回しか見たことがないからもしかすると違うのかもしれないけど。

 「ウチ、来る? 来ちゃう? 見てみる?」

 そこまで言われると、なんか気になる。おれはぽりぽりと頭をかいて立ちあがった。

 「ミナー、ノエラー? ちょっとポーラの店行ってくるから店番よろしくー」

 「るー」と「はーい」の声を確認して、おれとポーラはキリオドラッグをあとにして、道具屋へむかった。

 「てか、店あけてていいのかよ? お客さん来たらどうするんだよ」

 「いーの、いーの。どうせ誰も来やしないんだから」

 店の商品盗られたらどうすんだ、って思ったけど、この田舎町の治安はかなり良い。

 以前の盗賊事件以降、町では事件らしい事件はひとつとして起きていない。

 呑気なポーラを先頭に店に入る。

 うん。思った通り、物が置かれ過ぎていて、窓からの光を遮っていた。

 「やっぱ店暗いって」

 「そーかなー? こんなもんだと思うんだけど」

 「常にここにいるからもう麻痺してるんだって。だから、所用があって町に立ち寄った冒険者が店に入ってすぐ出ていくんだよ」

 そーかなー、そーかなーって、ずっとポーラは言っている。

 納得いっていないみたいだ。仕方ないな。

 おれは窓の前に置いてある防具やら何やらをどかして、光が入るようにしてやった。

 「―うほぉおおお? ちょっとだけ明るくなったよ、レーくん!」

 「だろ?」

 ほら、言った通り。やっぱり店が暗かったんだ。

 「その調子で全部お願いね!」

 「ちょと待て」

 逃げようとしたおとぼけお姉さんの襟首を掴む。

 「あんたもやるんだよ。この調子じゃ、在庫整理とかもちゃんとしてねえだろ?」

 「『あんたも』ってことは、レーくんも手伝ってくれるんだねー?」

 「くっ。余計なこと言っちまった」

 ため息をついて、作業を開始する。別の場所をポーラも片付けはじめた。

 「やっぱさー。店員ちゃん要るよね? 可愛い子。ミナちゃんがいいんだけどなー?」

 「ミナはダメだ」

 「じゃ、ノエラちゃんは? カッケー剣あげるって言ったら、オーケーしてくれそう」

 「物で釣るのはやめろよ。マジで釣れるだろうから」

 けど、あのフリーダムノエラが、こんな宝箱みたいな店でちゃんと店員が出来るのか?

 いや、無理だな。前に来たときは、ずっと一人で遊んでたし。

 「ていうか、ノエラもダメだ。森に行くとき頼りになる。あと、おれの『癒し』でもある」

 「そんじゃあ、最悪レーくんでいいよ」

 『仕方ねえな感』を何であんたが出してんだ。

 「〝レーくん〟は店主なの。ドラッグストアの屋台骨を引き抜こうとすんな。てか、よそからスカウトしろよ」

 「いないんだよねー。―可愛い子」

 「基準それなのに、何でおれスカウトしたんだ」

 こんな感じで店主トーク(?)を交わしながらおれたちは商品を整理していった。

 最低限の物だけ店内に残して、あとは倉庫に置いてく。

 「ほら。ちょっとだけ店が広くなったような気しない?」

 「するするー! なんか明るいかも! よーし、この調子で掃除していくぞー! おー!」

 「おー」

 適当に合わせると、ポーラがニマニマしながらおれを見てくる。

 はっ。また乗せられた。

 「ぷふふ。掃除、頑張ろうね?」

 はあ、とため息をついて、おれはさっさと済ませるべくホウキで床をはいていく。

 ふと顔をあげると、ディスプレイ用に残している鉄製の胴当てが目に入った。それが少しだけ黒ずんでいるように見える。長い間売れ残っているせいだろう。元の色よりくすんでしまっていた。

 「これ、ちゃんと磨いている?」

 「失敬な。埃は被ってないでしょー? 週一くらいでちゃんと油つけて磨いてるんだから」

 「週一かよ」

 「あははは……さっきまでいっぱいあったでしょ? それを全部磨いていくと、なかなか手が回らなくってさ」

 この胴当て、埃がどうのって問題でもなさそうだ。目を細めてよーく見ると、うっすらと細かい傷があるのもわかる。もっとキレイになれば売れ残ったりしないのに。

 「売れ残り続ければ、どうしたって入荷当初の状態を維持するのは難しいからねー」

 「キレイに……すれば……?」

 「どした、どした?」

 創薬スキルで思い浮かんだ薬がある。これなら、キレイになるかもしれない。

 「一旦店に戻ってくる」

 「え? なんで?」

 「薬―その防具をキレイにする薬、作ってくる」

 「えぇえええええ!? ほんとに!? そんなの作れるの!? 錬金術師すごいじゃーん!」

 感心しっぱなしのポーラに「錬金術師じゃねえから」と言い残して道具屋を出て、ドラッグストアへ戻った。怪訝な顔をするミナやノエラをよそに創薬室にこもる。

 普段あまり使わない草や木の根、樹液を元に創薬していった。

 【研磨液:小さな傷を削り研ぐ効果がある液体】

 よし、思った通りの物が出来た。おれは瓶を手に走って道具屋に戻る。

 「あれ、もう出来たのー?」

 きょとんとしているポーラに布巾を持たせて、研磨液を数滴垂らす。

 「なに、なになになにー? これで拭けばいいの?」

 「うん。やってみ」

 「お、おーけー」

 ひと拭き。ふた拭き。きゅ、きゅ―。

 胸当てが独特な音を立てる。

 「あ。―ぉおおおおおおおおおおお!? すごぉおおおおおおおおおおお!? キレイになってりゅぅうううううう!? ちょ、見て。レーくん、見てってば!」

 ポーラが指差した先には一部だけライトグレーに輝く胸当てがあった。

 他は少しだけ黒ずんでいてダークグレーのまま。

 「ほんとだ。全然違う」

 「ねー? げろやばい。これ、発明だよ。凄まじい発明だよ、レーくん! 胸当て、チョーキレイになるじゃん!」

 よーく見てみると、細かい傷はほとんど確認出来ない。

 ポーラが拭き終わると、キラリーン、と生まれ変わった胸当てが現れた。

 「レーくん、売れそうだよ! これなら、田舎の道具屋まじショボいってディスられることもないよ!」

 「ラインナップがアレだからショボいのは仕方ないんじゃ……」

 「なんか言ったー!?」

 「おれも研磨液で磨こーっと」

 聞こえなかったフリをして、おれもディスプレイ用の鉄製の籠手を磨いていく。

 拭くとどんどんキレイになるから、やってて結構楽しい。

 この調子で、店に置いてある商品全部に研磨液を使って磨いていった。

 「ま―まぶしいよ! レーくん。商品がげろまぶしいよ!」

 「女の子が『げろ』って言うのはどうなんだろう……さっきは聞き逃したけど」

 「いーんだよ、そんな細かいことは!」

 少し離れて見てみると、さっきと店内がまるで違う。劇的なアフター感がすごい。

 頭の中で一瞬、あの曲が流れるレベル。

 窓を遮った在庫はなくて日の光がたくさん入っている。

 ディスプレイされている商品はピッカピカ。見違えるほど変わった。

 「るーるーる。あるじ。あるじー、じーるあー、じーるあーあるじー、あるじのうたー」

 窓から見ると、ノエラが変な歌を歌いながらこちらに歩いてきていた。

 たぶん、あっちも暇だったんだろう。入ってくると店内を見回し、首をかしげた。

 「? ……店間違えた」

 ぱたん、と閉めて出ていった。

 ノエラも普通に間違えるくらい、この道具屋は変貌を遂げたらしい。

 「よぅーっし! これで、店は大繁盛間違いなしだねー!」

 テンションMAXのポーラの相手をどうにかこなして、おれは自分の店へと帰った。

 それから一週間後。

 「もっとこうさ、冒険者たちがこの町に来るようにしないとねー?」

 「はあ、そっすか……」

 結局、ポーラはキリオドラッグにやってきて愚痴っていた。

 「やっぱさー。ダンジョン作るのがいいと思うんだよね。レーくん、それくらい出来るでしょー?」

 「出来ねえよ。薬屋を何だと思ってんだ」

 「元々冒険者が来ないんだよねー! そりゃ、防具も武器も売れないよ!」

 たはーとポーラは自分のおでこをぺしんと叩く。やれやれ、とおれはため息をつく。

 「あー。今こいつ面倒くさいやつだなってレーくん思ったでしょー?」

 「んー。今っていうか前から?」

 「あはは―えっ……?」

 ポーラの真顔。ガラス玉みたいな生気のない瞳。口も力が抜けて半開き。

 ぷくく。ちょっとウケる。

 「冗談、冗談だから。面倒くさいって思ってたっていうやつ。ま、冒険者が来たらきっと売れるから」

 「…………うん…………。そだね…………」

 吹けば飛んでしまいそうな眼鏡レディを今度は励ました。

 本来のテンションに戻るまで結構な時間がかかったので、今後はあの手のからかい方は控えようと思った。