チート薬師のスローライフ2(4)

〜異世界に作ろうドラッグストア〜

4 社員旅行に行こう

 一週間ほど前から、社員旅行はどこに行って何をしようか、という話で、ウチの店は持ち切りだった。ミナは百年近く前から家を出てないし、ノエラはノエラだし、おれはもちろんこの町以外を知らない。要するに、おれたちは外の情報を全然知らなかった。

 ジラルに相談したところ、サン・ログロという港町をオススメされた。さすが、金持ちは色々と遊ぶ場所に詳しい。

 というわけで。

 お店は三日ほど閉めることにして、おれたちはカルタの町を後にした。

 馬車での移動中、隣に座るミナが目元を押さえて、ぐすぐす鼻をすすっている。

 「どうした、ミナ? 気分悪い?」

 「わたし、わたし……こんな日が来るなんて……うれしくて……」

 「今まで色々と頑張ってくれたし、それ全部ひっくるめて、おれからのお礼だから。泣くなって」

 「はい……っ。わたし、生きていてよかったです……」

 いや、死んでますよ? これ、空気読むと突っ込まないほうがいいよな……?

 窓から頭を出して尻尾を振っているノエラが、話が聞こえたらしく振り返った。

 「ミナ、死んでる。生きてない」

 ノエラは直球だなー。

 「そうでした、わたし、死んでるんでした……。死んでてよかったです」

 いいのかよ、それ!? 訂正すると余計ややこしいな。

 そんなこんなで、楽しい馬車の旅が数時間ほどで終わり、おれたちは港町サン・ログロに到着した。

 「あるじ、あるじ。海のにおい! 海のにおいする!」

 ちっちゃなリュックを背負うノエラが、ふりふりと尻尾を振っている。

 町から少し離れた場所はもう地面じゃなくて、海になっていた。

 「うん、そうだな。磯の香りがする」

 町に入ると、さすがは港町と言ったところか、活気に溢れていて市場には珍しい魚介類や、見慣れない道具が並べられていた。

 「なかなか賑やかなところですねえ~」

 ミナはつばの広い帽子をかぶっている。

 着ている白いワンピースと相まって、避暑地にやってきたお嬢様みたいだった。

 それから、港に行って船を見たり、巨大魚解体ショーを見たり、その刺身を食ったり、と港町を満喫していた。

 「レイジさん、少し町から離れた場所に、砂浜もあるようですよ?」

 「そういえば、ジラルもそんなこと言ってたな……。明日、行ってみるか」

 到着が昼過ぎだったということもあって、日が暮れるのも早く感じた。酒場で夕食をとることにして、特産品の海鮮料理を中心にいくつか注文する。出てきた料理をノエラはガツガツと一生懸命食べている。うん、ノエラさんは通常営業ですね。ミナも「お魚が美味しいです~」と満足げだった。ちょうど、真後ろの席の人の話声が耳に入った。

 「バードラ様の薬の効果はホントすげぇらしいぞ」

 「誰だよ、それ」

 「知らねえのか、今この町に来ている聖地巡礼中のシスター様だ」

 「ああ、聞いたことあるよ。その人が調合した薬は何でも治るって話だろ?」

 「まあ、ちょっと高価だが、万能薬だってんだから、むしろ安いほうさ」

 万能薬……。へえ……そんな物があるのか。

 「二つか三つほど常備しておいたほうがいいぜ、あれは」

 「そうか……なら、俺も買っておこうかな……」

 「ああ、それがいい。まだここに滞在されるらしい。行くなら早いほうがいいぜ?」

 そういう話なら、おれも参考にひとつ買っておこうかな。おれの創薬スキルでも作れる薬かもしれないし。そのバードラ様はこの町の教会に滞在しているらしい。

 それからおれたちは、日が暮れたこともあり、ちょっとだけ豪華な宿に泊まった。

 翌日。

 おれは聞いていた場所へと足をむけていた。仕事に関係することだから、ノエラやミナは別行動。今は渡したお小遣いで色々と買い食いしている頃だろう。

 万能薬っていうと、ドラゴンの爪から取れた粉でどうのこうの、とか、エルフの森に伝わる秘薬だとか、そういったものを想像してしまう。

 「というか……シスターなのに薬って……どういうことなんだろう?」

 創薬スキルがほとんどファンタジーだから、聖属性の力を込めた薬ってことも考えられる。教会へとむかっていると、聞き慣れた声がした。

 「ノエラさん、何を占ってもらいましょうか?」

 「あるじとの、相性。ノエラ、気になる」

 「あ~、それはわたしも気になりますね。バードラさんって方はよくあたるそうですよー?」

 ちょうど少し前をノエラとミナが歩いている。何してるんだ、あの二人。こっちは教会だぞ? それに今、バードラってミナ……。しかも占い?

 尾行しているわけじゃないけど、何となくおれは二人に気取られないように距離を取って歩く。到着すると、教会の中に入る二人。

 おれもこっそりあとに続いて、二人の動向を離れた場所で見守った。

 祭壇から少し離れた場所に机とイスがあって、バードラらしきシスターがそこにいる。

 むかいのイスをすすめられたミナが席に着いた。教会は最近使われていないのか、ところどころに埃が積もっていた。遠目で見る限りじゃ、シスターは若い女の子。

 薬を作るシスターは、占いも出来るらしい。

 「貴方の身近に……運命の人がいるわ」

 「えっ。え、えぇぇ!」

 「いるのね?」

 「ええっと、ええっと、わ、わたしにはわかりません……」

 「それから、貴方、気をつけて? 命に関わる大きな病気にかかるかもしれないわ」

 「えぇぇぇぇ……どうしましょう……」

 いや、おまえ死んでんだろ。なに心配してんだ。なんか若干ヘコんでるし。

 それから、ああだこうだ、と言われたミナは、紙袋を手にして席を立った。

 「これを飲めば大丈夫なんですね?」

 「もちろんよ。頑張ってね?」

 「何をどう頑張れば…………?」

 「はい、次は貴方ね?」

 さらっと無視されたミナに代わって、ノエラが席に着く。

 「あるじとの相性、占い」

 「そぉ。アルジさんは優しい人ね」

 「る!」

 コクコクとノエラはうなずく。なぜわかるのか、とノエラは興味津々な様子だった。

 「アルジさんとの相性は……そうね、かなり良いわよ?」

 「かなり、いい……っ!」

 シスターの説明をほうほう、とあまりわかってなさそうだけどノエラはうなずいている。

 「アルジさん、大きな病気をするかもしれないわね」

 マジかよ……。

 「けど安心なさい。この万能薬を少しずつ飲ませれば、そんなことにならないから」

 お金を払うと、ノエラも紙袋を持って席を立った。占いってのはこんなもんなんだろう。

 誰にでも当てはまるようなことを言って、それなりに納得させている。

 「帰ったら、わたし、ちょっとずつお薬、飲まないとです……」

 「ノエラも、あるじに、お薬飲ます」

 慌てて隠れたおれのそばを通るとき、二人はそう言って歩いていった。

 ってことは、あの紙袋の中身は万能薬なのか……? なんだろうな、この感じ。

 信心深くないおれだから、そんなふうに思ってしまうんだろうか。

 そもそもおれは、この世界に何神がいるのかさえ知らない。

 シスターは占いを終えると、何とか神のお導きがどうのこうのって言っていたし。

 というか、そもそも二人は占いに来たはず。なのに万能薬を買って帰っている。

 それはそうと、万能薬だ。おれはそっと教会をあとにして、ノエラとミナを追いかけ声をかけた。

 「おーい、ミナ、ノエラ。何買ったんだ?」

 「あ、レイジさん。お仕事のほうはもういいんですか?」

 「それなんだけど、おれも万能薬のことを調べようと思ってて、ちょうどミナたちが買っているのが見えたから」

 ずいっとノエラが紙袋を差し出してくる。

 「あるじ、これ、飲む。ちょっとずつ、ちょっとずつ」

 めちゃくちゃさっきの占いを気にしているな、ノエラ。おれのことを気遣ってくれるのがわかって、素直にうれしい。よしよし、とノエラの頭を撫でた。

 いい機会だから、薬がどんなものなのか確認しよう。

 紙袋の中を見ると、別の袋があり白い粉薬が中に入っていた。

 「あるじ、病気する。飲む、病気しない」

 「ええっと、先ほど教会でよく占いが当たるといわれているシスターさんにわたしとノエラさん、占ってもらったんです。命に関わる大きな病気をするから、と言われて、わたしも万能薬を買ったんです」

 「そもそもの話をするけど、ミナが死ぬことってあるの? 生物的に」

 「……そうでした! うっかりです! わたし、死んでるんでした!」

 どうも引っかかってたんだ。あのシスター、誰にでも当てはまることをただ言ってるだけなんじゃないかって。死なない限り、いつか大きな病気をする確率は高いだろう。

 ミナにもノエラにも似たようなことを告げていた。その説明をしてから、万能薬を買わせている。

 「ちなみにいくらしたんだ? この万能薬」

 「ええっと、占いが二〇〇〇リンで、お薬が一万リンです」

 万能薬なら、そう高い値段じゃないのかもしれない。……本物の万能薬ならな?

 さっそくスキルで万能薬を鑑定する。

 【小麦粉:小麦を挽いて作られた物】

 「おいおいおい。……全部これかよ」

 ミナのほうも見せてもらったけど、同じく小麦粉が入っていた。

 胡散臭いと思ったらそういうことかよ。

 「レイジさん?」

 「あるじ、どした?」

 「これな、薬じゃなくて小麦粉だ」

 「シスター、間違えた」

 「それなら、取り替えてもらわないとです」

 良心の塊みたいな二人には言いにくいけど、説明しないと。

 「たぶん、あのシスターはああして、小麦粉を万能薬と偽って売ってるんだ。もっと端的に言うと、騙してるんだ」

 いつも料理をしているミナならわかるだろう。袋をあけて、ミナに粉を舐めてもらう。

 「確かに……小麦粉です……。でもでも、レイジさん。占いがよく当たると噂で聞いたとき、万能薬もよく効くと聞きました。これはどうしてなんでしょう?」

 「占いについては、バーナム効果って言って、誰にでも当たるような曖昧なことを言うから、言われた側は当たってると思ってしまうんだ」

 「言われてみれば、ふわっとしたことしか言ってくれませんでした……」

 「ノエラも」

 で、肝心の薬のほうだ。

 「『万能薬』がどうして効くのか。……これは、偽薬効果って言って、飲む人が薬だと思い込むことで、症状が改善したり良い影響が出たりする現象なんだ。実際、有効成分が何も入ってなくてもな?」

 占いが当たるっていう話だから、相乗効果があったんだろう。

 しかも相手はシスターだ。それに、みんなが効くと言っている。信じ込むには十分だ。

 「そ、そんな……では、町のみなさんは、小麦粉を万能薬だと思い込んでいたから、効いているってことなんですか……?」

 「うん。そういう効果を利用して、みんなを騙してるんだ」

 医療は現代と比べればずいぶんとお粗末なものだ。

 医者に診てもらったのに治らないって話は、キリオドラッグに来たお客さんから聞くことがある。だから、この町の人たちも『万能薬』を求めたくなるんじゃないだろうか。

 むう、とノエラはしかめ面をしている。

 「お薬で、人、騙す。よくない」

 「はい、わたしもノエラさんと同意見ですっ」

 小麦粉を万能薬と偽ってぼったくっているんだ。薬師としておれもこれを見逃すわけにはいかない。

 「おれたちキリオドラッグで、あのシスターにお仕置きしようぜ?」

 ◆Side Another◆

 「みなさーん、注目してくださ~い!」

 サン・ログロの港町で、空き箱の上でシスターが両手を振って町ゆく人たちに呼び掛けている。

 みなの視線が集まったところで、もう一度そのシスターは、ふわりとした声を張りあげた。

 「これから、教会でシスター・バードルから、大事なお知らせがありますー! あまりお時間は取らせません。ですので、是非みなさんお越しくださーい!」

 足を止めた人々は結構な数がいた。関わり合いのない人が、興味を示すことはまずない。

 シスター・バードルに占ってもらったり、薬を買ったりした人たちだろう。

 「では、こちらです~。どうぞ一緒に参りましょー」

 シスターはぴょん、と空き箱から降りて引率役として教会へ歩き出した。

 後に続く人たちは五〇人を超している。

 彼らを一度確認するようにシスターは振り返った。

 最後尾についてきている黒髪の青年と目が合うとシスターはうなずいた。

 (―よし、ここまでは作戦通りです……)

 ◆Side Another◆

 ゴン、ゴン、ゴン―! ゴン、ゴン、ゴン―!

 シスター・バードラが昨日の売上を数えていると、教会の扉が何度も叩かれた。

 「なんだい、なんだい、騒騒しい……」

 この町で荒稼ぎした金の詰まった鞄に売上を入れ、一度舌打ちして席を立った。

 「廃教会なんだから勝手に入ってくればいいだろうに」

 愚痴っぽい独り言は、空っぽの教会によく響いた。この町では十分稼いだ。

 今日中には、また別の町へ行こう。

 『万能薬』のことがバレてからでは遅いのだ。

 だから今日だけは、厄介事は勘弁して欲しいのだが、そうはいかないらしい。

 扉を開けると、そこには黒髪の青年が立っていた。獣人の少女を腕に抱いている。

 「貴女がシスター・バードラですか!? 助けてください! この子が今朝からずっと目を覚まさなくて―」

 そう言って青年はぐったりしている少女に目を落とす。

 「町医者は評判が悪いみたいですし、もう、貴女しか頼れなくて……」

 「わかりました。では、こちらへどうぞ」

 深刻そうな顔をしてみせると、バードラは中へ青年を招いた。

 とは言え、やることはひとつきり。

 バードラは、荷物の中から『万能薬』を取り出し微笑の仮面をつけて振りかえった。

 「これがかの万能薬です。これをお求めなのでしょう?」

 「はい! これがあれば、この子は治るんですよね!?」

 すがるように青年が見つめると、バードラは慈悲深い笑みをたたえうなずいた。

 「はい。ただ……数量が限られて非常に貴重な代物となります……お譲りするというわけにはいかないのです」

 「もっ、もちろんです! おいくらですか?」

 今にも泣き出しそうな男の顔が、バードラの嗜虐心をくすぐった。

 町を離れるのなら、道中の護衛を数名雇わなければならない。

 面倒くさそうな訪問者だ。ふっかけてもいいだろう。

 彼に護衛料を工面してもらうことにした。

 「三〇万リンです」

 「さ、三〇万、ですか……。あの、一万とお聞きしたのですが―」

 「まだ数が豊富でしたから」

 ニコリ、と笑って男の言葉を遮った。とっとと帰れ、という遠回しの意思表示だった。

 「一万ならあるんです!」

 内心舌打ちしながらも、バードラは済まなさそうに目を伏せた。

 「申し訳ありません、三〇万でないと……それに、次の町でわたくしの到着を待っている方たちがいらっしゃいますし……」

 「で、では―買える分だけでいいんです! 売っていただけませんか!?」

 同じ物が市場で沢山売られているだろうに。口元に嘲笑が思わず浮いてしまう。

 「わかりました。では、一万リンで買える分だけ……」

 「ありがとうございます!」

 滑稽だな、と思いながら、男から一万リンを受け取る。

 スプーンひとすくいの『万能薬』を男に渡した。

 コン、コンコンッ。

 祭壇の裏から物音がした。そちらへ目をやった男の視線が鋭くなる。

 怪訝に首をかしげていると、男が少女に『万能薬』を飲まそうとしていた。

 バードラは、この男の対応に思ったよりも時間がかかっていることに苛立っていた。

 「この子は、これで治るんですよね!?」

 「もちろんです。神を信じるお心があれば、必ず治ります」

 フン、と今、男が鼻で笑ったような気がした。

 「すぐに目が覚めるんでしょうか? それとも、ある程度薬を与え続けないとダメなんでしょうか?」

 そう思ったが、男の表情は真剣そのもの。今笑うワケがない。気のせいだろう。

 次々に飛んでくる男の質問に、バードラのイライラが募っていく。

 はぁと長い溜息をついたバードラは、被っていたベールをぞんざいに脱いで頭をかいた。

 しばらく遊んで暮らせる程度の金が出来た。

 多少バレたとしても、遠くの町まで移動すれば、噂は聞こえてこない。

 「鬱陶しいなあ……。もういいか、次の町に行くし。……アンタが効くと信じ込んでんのは、ただの小麦粉だよッ! アハハハハ! バッカじゃねえの。どう? 驚いた?」

 貞淑そうなシスターが一変し、口汚い粗野な女が現れた。廃教会に声が反響する。

 バードラの予想に反して驚かなかった男ではあったが、疑問を口にした。

 「こ、小麦粉……? じゃあ、今まで町の人たちに渡していたのも……」

 「ああ、そうさ。別の町で格安で買った、ただの小麦粉さ。それをありがたがって買いに来るんだもんなあ。ボロい商売だよ。あたしがシスターっていうだけで効くって信じ込んでさ」

 「じゃ、じゃあ……何も効果がないってことですか……?」

 「あるんじゃねえの? 効果がなかったら、それこそ『信じる気持ち』が足りなかったんだろ?」

 「そ、そんな…………じゃあ、町の人たちを騙してたってことですか―?」

 ひと際大きな声の問いかけに、バードラは面白がって大声で応じた。

 「騙されるヤツが悪いんだよ!」

 キャハハハハ、と黄色い笑い声をあげたときだった。

 祭壇裏の扉が開く―。金髪のシスターがこちらを指差した。

 「はーい。以上が、シスター・バードラのお言葉でした~」

 「え―っ?」

 そのシスターの奥には、殺気立った住人が何人も何人もいた。黒髪の青年がケタケタ笑う。

 「いやー。ハハハ、早くて助かるよ。『万能薬』の正体が小麦粉なんて、こっちは最初っから知ってんだよ。けど、それをおれがみんなに教えたところで、信じてくれないだろ? みんなは効くって信じてるんだから。じゃ、アンタの口からホントのことを教えてもらおうって思ってさ」

 青年が獣娘の肩を叩くと、パチッと目を覚ました。

 「あるじ、もういい?」

 「おう、名演だったぞ、ノエラ」

 バードラは奥歯を噛みしめた。

 「おまえ……! 最初からあたしを騙すつもりで―ッ!」

 「なに言ってんだよ」

 ふん、と青年が鼻で笑った。

 「『騙されるヤツが悪い』って言ったのはアンタだろ?」

 ぞろぞろ、と奥のほうから市民が険しい顔でやってきた。

 「どういうことか説明してもらおうか」

 「内容によっちゃあ、アンタを騎士団に突き出すことになるがな?」

 「お金を返しなさい! 売りつけた人たち全員に、お金を返しなさいよ!」

 取り囲まれたバードラは肩をすくめた。

 「お金、なんですけど、もう全部使ってしまってもうここには―」

 「あ、売上は、あそこに置いてある鞄の中にしまってましたよ?」

 青年が指差した革袋へと全員の視線が集まり、殺到した。

 「やめてぇええええええええええ! 売上! お金! それ、他の町で稼いだ分もあるんだからぁああああ、みんなの分はきちんと返すからぁああああ―! やめてぇぇ……」

 へにゃへにゃになって座り込んだバードラの肩を、ポンと青年が叩いた。

 自分が支払った一万リン札をひらひら振る。

 「ウソはよくないよ、ウソは」

 獣娘と修道女と一緒に青年は去っていこうとすると、一度足を止めてバードラを振り返った。

 「万能薬ってはじめて聞いたときから、おかしいって思ってたんだ。おれ以外に作れるやつなんていないだろうから。―薬、あんま舐めないほうがいいぜ?」

 ◆Side レイジ◆

 結局、バードラは騎士団に突き出されることとなり、牢屋送りとなった。

 「バードラさん、シスターでも何でもなかったんですねえ」

 「ズル賢いというか、何と言うか。そのほうが薬の信憑性は増すだろうし」

 「あ~。言われてみれば、そうですね」

 というのは、騎士団の人たちが取り調べた結果、わかったことらしい。

 教会とは何も関係ない部外者が、シスターを騙って詐欺を働いていた、というだけの話。

 夕食をとるころにはそれが判明していて、町中その話題で持ち切りだった。

 で、今は宿屋に戻っておれたちはだらだら過ごしている。

 「何にせよ、上手いこと悪事を暴けてよかった」

 「レイジさんの名演があってこその結果です」

 「そんなことねえよ」

 おれのベッドでさっきまでばた足をしていたノエラは、今は寝ている。

 「帰るのは、もう明日なんですよね……」

 「余計なことに一日使っちまったな。……もう一日、延ばそうか?」

 ふるふる、とミナは首を振って微笑んだ。

 「もう十分です、レイジさん。それに、また、今度。です」

 「今度……。そうだな、また三人で来よう」

 そう言って、おれも笑顔を返すのだった。