ガチャ運ゼロの最強勇者 第一章(2)

「そのクエストっていうのは、どうすればできるの?」

 「ガチャで引いた武具が導いてくれます。行きましょう」

 サラサに手を引かれ、僕は村に戻った。

 ひのきの棒は彼女が持っている。

 クエストに関わりのある人に近づくと、武具が反応するのだそうだ。で、その反応はナビゲーターであるサラサにしか感知できないのだとか。

 しばらく村の中を歩いていると、

 「あー、またRか。これじゃ駄目だな」

 そんな声が前方から聞こえてきた。

 広場に人影がある。

 「ん、ジークか?」

 振り返ったのは、僕と同い年くらいの一人の少年だった。

 彼の名はマティアス。金髪碧眼のイケメンで高身長。立派な甲冑やマントを身に付けていて、いかにも勇者って感じの外見だ。

 一年くらい前に勇者に選ばれた僕の幼なじみである。村近くの領主様の一人息子──つまり貴族の跡取りだった。

 「お前も勇者に選ばれたんだって? 随分可愛いパーティメンバーを連れてるじゃないか」

 マティアスと一緒にいるガッシリ体型の中年男がたずねた。

 彼とパーティを組む戦士らしい。

 「そういえば、近くの国が魔族の軍に攻められてるらしいな? SSR武器でも引けば、大活躍のチャンスだぜ。お前も良い武器が引けるといいな」

 「無理無理。魔王軍を率いる高位魔族はSSR持ちでさえ敵わないくらい強いらしいからな。こんな貧弱野郎が敵う相手じゃない」

 中年戦士の言葉に、マティアスが嘲笑する。

 「こんな貧弱野郎が敵う相手じゃない」

 ……わざわざ二回言わなくてもいいだろ。嫌味な口調にムッとなった。

 「こんな貧じゃ……」

 「三回も言わなくてもいいよ!?」

 さすがにツッコむ僕。

 「まあまあ、同じ勇者同士なんだろ? 仲良くしな」

 と、なだめる中年戦士。見た目に反して優しいんだな。

 「俺らだって、とても勝てない相手だしな」

 「今はまだ武器がそろってないだけだ。勇者は装備する武器に応じて、そのステータスを上げられるからな。高レアリティの武器さえあれば、俺だって──」

 マティアスが言い返す。こいつはとにかく鼻っ柱の強い性格なのだ。

 「SR一本と残りはRやNばっかりだ。あーあ、もっと大量にガチャ引きたいところだが、クリスタルが足りないんだよなぁ……また集めてこないと」

 めちゃめちゃ説明口調で言いながら、マティアスが背を向ける。

 「こんな奴にかかわっている場合じゃないな。じゃあな、貧弱野郎」

 「ガチャは修羅の道だぞ。ガチャに上限はない。SSRを引き当てるまで底なし沼だからな。がんばれ」

 中年戦士は去り際に僕を気遣ってくれた。

 「いや、それは違うな」

 振り返ったマティアスが笑う。

 「SSRを引き当てた後も、だ。強い武器が一本手に入っても、またその次が欲しくなる。しかも世の中にはもっと強いLR〈レジェンドレア〉なんてのも──って、こいつと話してる時間が惜しいな。とにかく、行くぞ」

 とにかく知っていることを説明したいらしいマティアスはふんと鼻を鳴らし、中年戦士とともに去っていった。

    * * *

「嫌味な人ですね。あんな言い方しなくても……」

 彼らが去った後で、サラサが怒ったように口を尖らせた。

 「まあ、根はいい奴なんだけどね」

 「もう。勇者様はお人よしです」

 なんて話しながら、僕とサラサは村の中を進む。

 と──

 「あら、ジーク。可愛い女の子を連れてるねぇ」

 「お、彼女でもできたか?」

 近所に住む中年夫婦が、僕らを見て冷やかした。

 大きな荷車を引いている。

 この人たちは運送業を営んでいるのだ。

 「お似合いだねぇ。あたしたちの若いころを思い出すわぁ」

 と、おばさん。

 「ち、違います、そんなんじゃ……」

 言いつつも、なんだか照れてしまう。

 「彼女っ? こ、恋人同士ということでしょうか、あわわ……」

 隣でサラサが真っ赤にしていた。

 「恋人……私と勇者様が……」

 「サラサ?」

 「や、やだ、私まだ心の準備が……それに、出会ったばかりですし……」

 僕も恋愛経験なんてないに等しいけど、彼女はそれに輪をかけてみたいだった。

 「あ、もしかして」

 ふいにサラサが素に戻ったように顔を上げた。

 「この人たちがエピソードの発生源ですね」

 中年夫婦を見つめる。

 「えっ、そうなの?」

 「ひのきの棒が示しています。『彼らの願いを叶えよ』──と」

 見れば、ひのきの棒がチカチカと淡い点滅光を放っていた。

 「ナビゲーションオン!」

 サラサが呪文を唱える。

 次の瞬間、その光は空中に大きなウインドウを描き出した。

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クエスト内容:中年夫婦の手伝い(荷物運び)

クリア条件:一日以内に荷物を指定場所まで十個運ぶ

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「荷物運び……?」

 「そのひのきの棒の望みのようです」

 「えぇ……なんの関係性があるんだ……? とりあえず運送の仕事をこなせばいいんだよね?」

 僕らは中年夫婦の元へ歩み寄った。

 「その仕事、代わりにやらせてもらえませんか?」

 「ん、どういうことだ」

 訝るおじさんに、僕は言葉を詰まらせた。

 うーん、どう説明しよう。

 「えっと、勇者になったので、とりあえず鍛錬がてらにお手伝いできればと……」

 僕は適当に誤魔化してしまった。正直、一から説明するのは面倒だったのだ。「おお、それは感心だ」

 「いやー、助かるねぇ」

 嬉しそうな二人。というわけで、僕はサラサと二人で荷台に荷物を積みこみ始めた。

 意外と物量が多く、一苦労だ。本当に鍛錬になるかもしれない。

 「大丈夫、サラサ?」

 女の子には重いかもしれないな、これ。

 「はい〜! 私も勇者様と一緒にがんばりたいですから〜!」

 笑顔で歯を食いしばり、プルプル震えながら荷物を運ぶサラサ。その気持ちに感謝しつつ、少しでも彼女の負担を減らそうと、なるべく重そうな荷物に手を伸ばす──

 「あ……」

 指先に柔らかな感触が当たった。サラサと手が触れてしまったのだ。

 「ゆ、勇者様……」

 ちょうど彼女もこちらを見ていて、急に気恥ずかしくなってしまう。

 やっぱり、可愛い。しかも僕、この子とキスしたんだよな……。

 「す、すみません……」

 サラサも赤い顔で僕を見つめていた。

 「あわわわ、やだ、思い出しちゃう……」

 何やら照れているところを見ると、僕と似たようなことを考えたんだろうか。「……先ほどは申し訳ありませんでした」

 サラサがぽつりとつぶやき、頭を下げた。

 「勇者様にあのような無礼なことを……」

 言いながら、頬をかわいらしく染めるサラサ。

 「もしかしてキスのこと……?」

 「きゃー、はっきり言わないでくださいっ」

 サラサはさらに顔を赤くしつつ、両手をぶんぶんと振った。

 「また恥ずかしくなってきました……ふわぁ」

 「ご、ごめん……」

 っていうか、僕も照れくささがぶり返してきた。

 「口づけなんて……生まれて初めてだったので……」

 唇を押さえて真っ赤になるサラサ。

 「実は僕も初めてで……」

 言いながら、ますます恥ずかしくなってきた。

 ちらりとサラサを見る。

 間近で見ると、本当にかわいいな、この子。

 気が付けば、サラサも僕をちらりと見ていた。

 互いに見つめあっている状態だ。

 「っ……!」

 僕らは弾かれたように、同時に顔を逸らした。

 駄目だ、まともに見つめあうこともできない──心臓がバクバクいって破裂しそうだ。

 「おやおや、初々しいねぇ」

 うわ、びっくりした!?

 振り返ると、おじさんとおばさんがニヤニヤした顔で僕らを見ていた。

 さっきのやり取り、全部見られてたんだろうか……。

 「つ、続きしよっか?」

 「きっ、キスのですか!?」

 「あっ、いや、荷運びの……」

 「は、はい、勇者様……」

 僕らは照れ笑いしながら、作業を続行した。

    * * *

 それから一時間ほどして、ようやくすべての荷物を積みこむことができた。

 おじさんとおばさんはすごく感謝してくれて、

 「はい、これお駄賃だよ」

 「いえ、そんな──」

 「何言ってんだい。仕事をしたらちゃんと対価を受け取る。正当な報酬を得るのは、仕事をした人間の責任だよ」

 「じゃあ、ありがたくいただきます」

 「こちらこそ、ありがとうね。そっちの彼女さんもね」

 「へっ、か、彼女っ!? いえ、私は、そのっ」

 たちまちサラサの顔が真っ赤になる。

 「ふふふ、まだ恋人未満ってとこかい? まあ、がんばりな」

 言って、おばちゃんは去っていった。ちょっと早とちり気味だけど、いい人だったな。

 「……サラサ?」

 「彼女……勇者様の、彼女……」

 彼女は顔を真っ赤にしたまま、モジモジしていた。

 ……照れ屋さんらしい。

    * * *

「さっきはありがとう、サラサ」

 「えっ」

 「荷物運び、手伝ってくれたでしょ」

 「私は勇者様のナビゲーター。ですもの。あれくらいは当然です」

 微笑むサラサ。健気でいい子だなぁ、と胸が熱くなった。

 「とりあえず、ひのきの棒はアイテムボックスに入れておきましょう」

 「アイテムボックス?」

 ああ、そういえば勇者は、ガチャを引く能力に付随して、引いたものを収納できる能力も授かるんだっけ。

 神様から勇者に選ばれ、ガチャの説明を受けたときのことを思い出す。

 あのときは興奮して、説明もあんまり頭に入ってなかったからなぁ……。

 サラサが改めて教えてくれるのは、すごく助かる。

 「えっと、アイテムボックス召喚──でいいのかな?」

 うろ覚えの記憶を引っ張り出しながら、呪文を唱えた。

 ぼんっ、と白煙が上がり、足元に数メートル四方の箱が現れる。

 これがアイテムボックスらしい。ふたを開けると、内部は極彩色の空間が広がっていたので、ひのきの棒を入れておいた。

 もう一度呪文を唱えると、アイテムボックスはどこかの異空間に消えてしまった。

 出し入れ自由みたいだ。これは便利。

 「エピソードクリアしたので、次のガチャが引けますよ」

 サラサが微笑む。

 「よし、今度こそいい武器を手に入れるぞ」

 僕は意気込んで拳を振り上げた。

 どうか、いいものが当たりますように──

 クリスタルの入手に比べれば簡単かもしれないけど、一回ガチャを引くごとに雑用をするなんて、やっぱり手間だからね。

 僕はガチャ用の石板を召喚した。

 サラサのでは、初回のガチャの後、この石板は念じればどこにでも現れるそうだ。

 「見てください。今日の正午から一か月間は、SR以上の火属性武器が確率二倍って表示されてますよ」

 サラサが石板の情報欄を指差した。

 ここにはガチャで出てくるお勧め武器やアイテムが表示されていて、その内容は数日ごとに変わるのだ。

 最初に見たときから数時間が過ぎ、表示が変わったらしい。

 「お勧め武器としてピックアップされているのは、SSR武器『レーヴァテイン』……炎を発する高火力の剣です。これ、当たるといいですね。ちなみに性能はこんな感じです……ナビゲーションオン」

 サラサが呪文を唱えると、空中に文字が浮かび上がった。

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レーヴァテイン

レア度:SSR

種類:剣

攻撃力:3500

魔力:700

特殊効果:火属性が弱点の敵に、通常の三倍のダメージを与える。

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「よさそうだね。デザインもかっこいいし」

 サラサの言葉にうなずく僕。

 ちなみに、最初に引き当てたひのきの棒は攻撃力たったの5である。

 NとSSRの格差恐るべし。

 「SSR武器には使い勝手のよさそうなものがいくつもありますよ」

 「そうだね、せめてSRでも当たればなぁ」

 願いを込めつつ、石板の中央にあるレリーフをタップ。

 ギィィ……。

 石板が扉のように開き、その奥の異空間で宝珠が弾けた。そして、一つの武具が出現する──

 リーチが長く、剣よりも遠距離の敵を攻撃できる長柄。

 素材は軽く、取り回しやすい。先端部には無数のブラシがついていて──

 「……【デッキブラシ】だよね、これ……絶対に掃除が捗るよね」

 「……【デッキブラシ】ですね…………N武器です」

 「武器なの? これ武器じゃないよね!?」

 まあ、そう簡単にSSR武器なんて引けないよね。

 分かってたよ、うん、分かってた。き、期待なんかしてないんだからねっ。

 「勇者様、お気を落とさずに……」

 サラサが慰めてくれた。 ぴろりーん。どこかから音が響く。

 「あ、スキルを習得しましたね。さっきのクエストのおかげだと思います」

 サラサが嬉しそうに言った。

 「え、強くなったの、僕?」

 「勇者が成長する方法は大別して二つです。まず、強い武器や防具を装備すること。これによって攻撃力や防御力が上昇します」

 ナビゲーターらしくサラサが説明モードに入った。

 「そしてもう一つは経験値。経験を積むことで、能力がレベルアップしたり、あるいは新たなスキルを覚えたりするんです。今、ステータスを確認しますね」

 言って、呪文を唱えるサラサ。

 「ナビゲーションオン」

 僕の能力値が再び示される。

 数字などはさっきと変わらないけど、最後に一つ項目が付け足されていた。

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所持スキル:家事(レベル1)

炊事や洗濯など家事能力全般が向上する。

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「勇者と、なんの関係もないスキルなんだけど!?」

 さっきの荷物運びが関係しているんだろうか……。

 剣を扱えば剣術スキルが、魔法を使えば魔法スキルが上がる、というような話は聞いているけど──家事スキルとは、ね。

 「……ま、まあ、家事が得意な男性っていいと思いますよ、私」

 「……そ、そうかな、あははは」

 顔を引きつらせて笑い合う僕とサラサだった。

 僕が引き当てたのは『銭湯のデッキブラシ(N)』。リーチが長く、遠い範囲の敵にも届く長柄武器だ。

 ……いや、武器っていっていいのかな、これ。攻撃力は最低レベルだし、耐久性も低いからすぐ折れるし。

 で、課されたクエストは『近所の風呂掃除』だった。

 風呂掃除を済ませて、次のガチャを引く。

 引き当てたのは『酒屋の酒瓶(N)』。

 武器としての性能は──まあ、お察しレベルだよね。クエストは『酒の宅配』など、お店の仕事の手伝いだった。

 「がんばりましょうね、勇者様っ」

 と、サラサがまた励ましてくれる。

 本当、健気でいい子だなぁ。

 クエストをパパッと終わらせて、次にガチャを引くとまたN武器。

 うん、知ってた。

 そして次もN武器。

 さらに次も──

    * * *

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ジーク

 クラス:勇者

 レベル:1

 体力:15

 魔力:20

 攻撃力:7

 防御力:9

 敏捷性:12

ユニークスキル:無料ガチャ(レベル1)

 勇者の所持スキル『ガチャ』をクリスタルの消費なしで引くことができる特殊能力。代償として『クエストエピソード』をクリアする必要がある。

所持スキル:家事(レベル3)

 炊事や洗濯など家事能力全般が向上する。

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 二週間ほど経っただろうか。僕の家事スキルは3まで上がっていた。

 一方でモンスターとの戦闘のような勇者っぽい経験はゼロなので、基本ステータスはまったく変わらず。

 うーん、いいのかなぁ、これで。

 ちなみに、その間に引いたのはすべてNランクの武器やアイテムばかり。

 もう五十連続くらいかな……。

 もうそろそろ、Rくらいは当たってもいいと思うんだけど。

 「そうですね、そろそろ当たってもいいかと!」

 サラサが力説した。

 「大丈夫です。『ガチャは当たるまで引けば、100%当たる』って天界で聞きましたよ!」

 「なるほど、確かに……ん?」

 納得しかけたところで、ふと首をかしげる。それ当たり前のことなんじゃ……? と思ったけど、ドヤ顔のサラサを見ていたらどうでも良くなった。まぁ、いいか。

 ちなみにR以上の武器やアイテムを引くと、それらに想いを込めた人物が召喚されることもあるそうだ。クエストの依頼主が向こうからやってくるということらしい。

 課せられたクエストを達成すると、その人物と勇者──つまり僕は、魂レベルで深く結ばれ合った存在になる。要は、強い絆で結ばれた『仲間』になれるってことだ。

 今のところ、そういう仲間はゼロだけど……。

 いつか、僕にもそういう『仲間』が現れるんだろうか。

 勇者としてパーティを組める日が来るんだろうか──

    * * *

 それからも僕はクエストをこなしてはガチャを引いた。

 たとえば、直近十回分の成果はこんな感じだ。

 一回目──ひのきの棒(N)

 二回目──ひのきの棒(N)

 三回目──ひのきの棒(N)

 四回目──ひのきの棒(N)

 五回目──鉄の鍋蓋(N)

 六回目──銭湯のデッキブラシ(N)

 七回目──ひのきの棒(N)

 八回目──革のグローブ(N)

 九回目──ひのきの棒(N)

 十回目──薬草(N)

 ……って、あらためて振り返ると、ひのきの棒多くない!? ガチャってけっこう出てくるものが偏るのかな。