スキルゼロ冒険者の俺、結婚して龍王の騎士となる(1)

第1話 冒険者失格の烙印を押されました

 「えーっとですね、アレクさん鑑定の結果ですが……」

 俺は固唾を呑んでギルド受付嬢であるチコさんの次の言葉を待った。

 「スキル発現の可能性がゼロです」

 その一言は俺のいろいろなものを打ち砕いた。

 スキルとは神から与えられるギフトだと言われている。言ってみればその人の才能が具現化したものだ。内容は様々で、調理から剣術まで多岐にわたる。まれに複数のスキルが発現する人もいて、組み合わせによっては英雄と呼ばれる者もいた。

 逆に言えば、だれでも一つのスキルを持っていることになる。そしてスキルが無いというのは、かなり異常なことだと言えた。

 とぼとぼとギルドを後にする俺に、チコさんは何かを呟いたようだった。

 「おかしいわね……スキル発現の可能性が低いじゃなくてゼロって……?」

 その後、俺はいくつかのパーティに入ってはクビになってを繰り返し、最終的にゴンザレスさんのパーティに入った。彼は新人冒険者の支援をしており、見習いとしてパーティに参加することになったのだ。

 ***

 しかし、パーティに参加してしばらくたったある日、俺はゴンザレスさんにギルドに呼び出された。

 「すまん、アレク。お前のことを考えるとだな」

 俺はついに来たかと、ゴンザレスさんの言葉を聞いていた。

 「ええ、わかりますよ。こちらこそすいません。お役に立てなくて」

 「お前のことは気に入っているんだ。まじめで仕事に手は抜かねえ」

 「ええ、けど、スキルがない冒険者なんて……でしょ?」

 物分かりの良すぎる言葉にゴンザレスさんは髭面をゆがめる。苦渋の表情に俺も胸が痛んだ。

 「このままやってたら、お前はいつか死ぬぞ? 俺はお前が死ぬところを見たくねえ!」

 そう言うとゴンザレスさんは、勢いよくジョッキをテーブルに叩きつける。その物音にギルドのざわめきが一瞬止まった。

 「そう、ですね。ゴンザレスさん。本当にお世話になりました」

 俺は深々とお辞儀をする。この人は本当に面倒見のいい人だ。顔をあげないのは、目元に浮かんだ涙を見られたくないからだ。

 「すまん、アレク。達者でな。こんなことを聞くのもなんだがこれからどうするつもりだ?」

 「とりあえず故郷の村に帰ります」

 「そうか。なんてところだ?」

 「ティルの村です」

 故郷の村はこの街から北へ駅馬車を乗り継いでひと月ほどかかる。新米冒険者が旅するには過酷な道のりだ。

 「お前、よくあんなところから出て来たな……」

 「いろいろと運がよかったんですよ」

 駅馬車の乗り継ぎがすぐできたり、ランクの高い冒険者が乗り合わせたりとかいろいろあった。

 「そうか、近くの宿場まで送って行ってやろうか?」

 「いえ、これ以上ご迷惑をおかけするのは……」

 「馬鹿野郎。お前は俺のパーティにいた。ってことはだ、お前は俺の息子も同然だ」

 再び目頭が熱くなったが、必死に笑顔を作った。

 「そうですね。けど、ちょっと一人でいろいろ考えたいので……ありがとうございます」

 「これからどうするつもりだ?」

 「故郷に帰って嫁さんもらって、のんびり過ごしますよ」

 「へっ、あてはあるのかよ?」

 「ええ……幼馴染の子がいまして……」

 「そうか。いつかお前の村を訪ねて行くからな。達者でいろよ?」

 「はい、ありがとうございます」

 そう言ってゴンザレスさんは髭面をゆがめて手を振っていた。最初はあれが笑ってると分からなくてすごく怖かったが、とてもいい人なのだ。

 彼は言わなかったが、新人冒険者の世話で出費がかさんでいることを、俺は知っている。ベテランが多く所属しているが新人も多く、自身の収入のほとんどを、新人支援のために使っていた。駆け出し冒険者だった息子さんを失ってから、彼は常にそうなのだ。

 だから彼を父と慕う者は多く、巣立っていった冒険者の中には高名なゴールドランクの人もいるとかなんとか。

 ゴンザレスさんの手助けがあったものの、結局、俺はクエストでは、守るために手を割かれないといけないお荷物で、ほかのメンバーからも白い目で見られていた。

 そんなときゴンザレスさんは、「アレクはなんか運がいい。俺たちもあやかろうぜ!」とかばってくれた。

 確かに、大型の魔物が迫ってきた時、偶然放置されていた罠が作動して討伐に成功したり、食料を探していたときになぜか穴にはまって、その先に宝箱があったりしたこともあった。けどそれはあくまで偶然の産物で、俺の功績じゃない。

 ゴンザレスさんが、いつでもかばってくれることも俺にはつらかった。

 ***

 定宿にしていたミズチ亭で、宿の女将であるクレアさんに挨拶をすると、餞別としてお弁当をもらった。中身は、ワイバーン肉のフライが入ったサンドイッチだった。

 「こんな高いもの……」

 ワイバーンは狩るのが難しく、その肉は高価だ。クレアさんは俺のために、わざわざ用意してくれたに違いない。

 「いいんだよ。またいつかこっちに来たら顔を出すんだよ。その時はお嫁さんでも連れてきてくれたら嬉しいねえ」

 恰幅のよい体をゆすりながら呵々と笑う彼女の目も少し潤んでいた。ちなみに彼女は、ゴンザレスさんの奥さんである。

 「お嫁さん」の一言で俺は幼馴染の少女──ナージャを思い浮かべた。クレアさんの一言で改めて思い浮かんだのが彼女だった。

 旅立ちの日、彼女は真っ赤な宝石のペンダントを俺に渡してきた。首からかける紐には彼女の髪が織り込んであって、ところどころキラキラと輝いている。

 「お守り。あげるんじゃなくて貸すだけだから。だから無事に帰ってきてね!」

 そう言ってナージャは潤んだ眼で、それでも精いっぱいの笑顔で俺を見送ってくれた。

 いつかナージャにこの街の風景を見せてやりたいと思った。いまも故郷の村で俺のことを待っているのだろうか? そう思うとちくりと胸が痛んだ。

 「はい、その時はまた!」

 「龍王様のご加護があんたにありますように」

 真摯に祈る姿勢から、本当に俺の旅の無事を祈ってくれているのがわかった。再び溢れそうになる涙をこらえ、俺は笑顔で別れを告げる。

 ミズチ亭を後にした俺は、ふと思い立ってギルドに向かい、手紙を書いた。あて先はナージャだ。「冒険者をやめて帰ることにした」と簡潔に綴り、封をして所定の手続きをとる。

 受付してくれたチコさんが宛名を見てニヤニヤしていた。

 「ふーん、アレクも隅に置けないわねー。可愛い彼女がいたんだ?」

 「え、いや、彼女とかじゃなくて……」

 「ふふーん。けど大きくなったら結婚する──とか言ってたんでしょ?」

 「いや、あの、その……」

 「うわー、マジか。アレクなんか爆発してしまえー」

 からかうチコさんの目が少し潤んでいたような気がしたが、言うと怒られそうなのでやめておく。

 手紙は、ちょっと値段はかさむが飛竜便で出してもらうことにした。おそらく数日で村に届くだろう。ちなみに料金は、チコさんがちょっとおまけしてくれたようだ。

 ***

 俺は龍王の町・レンオアムを後にして、故郷のある北へ足を向ける。冒険者だった頃の思い出が胸をよぎり、もう冒険者でなくなったことに少し胸が痛んだ。

 駅馬車に乗る路銀のために、不要になったアイテムなどは売り払った。手荷物は簡素なレザーアーマーとバックラー、それに故郷から持ってきていた片手剣。あとは食料とかだった。

 そんなひと月の旅路を終えて、俺は三年ぶりに故郷の村にたどり着いた。先に手紙を出しておいたので、誰かいるだろうかと思っていると……入口の門の前に一人の少女が立っていたのだ。

 「お帰りなさい、アレク!」

 そういうと彼女、ナージャは金髪をなびかせながら、俺の大好きな微笑みを浮かべて抱き着いてきた。ふわりとした甘い香りが鼻をくすぐった。